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2004年05月02日

WA:f版で

ファイル 21-1.jpg

ザックとハンペン。メニューページの背景だった。
あの頃良く日替わりで背景変えてましたね私…どういう回路だったんだ。

0005-01 (0010)

 この養成所に来て初めて、魔獣との戦闘というものを正しく意識しながら戦った様に思う。
 分かれ道たる洞穴の左側に潜り、暫く進んだ所で、半ばが水没した地点に出た。そこには以前、あの椰子の実を採った時に出会した魚と鮫が、食料を求めて待ちかまえていた。全部で4体。
 ふと、思い立った事がある。クラスチェンジ後に行われた講習で説明された、相手を攪乱する為の動き。それを試してみる事にした。踏み込みと膝による、ある種のフェイント。
 ジャネットが鮫を屠ると同時に動く。なんとか巧くいった様に思う。俺に襲いかかろうとしていた魚のアゴは空を虚しく噛み砕いた。そのまま背後に回ると、魚の腹に小刀を突き刺し、振り払った。魚の落ちた辺りが朱色に染まる。ジャネットに振り向くと、彼女は丁度最後の魚を仕留めた所だった。

「今回はどちらに行っても同じだった様だけれど」
 そこは2本有った入口の、合流地点だった。ジャネットはその2つを交互に指差してから続けた。
 「選択する」という事は、必ず「その先」に影響を及ぼす。時間を戻せる道理が無い以上、常にその精神を忘れない事だ、と。
「そんなに重大な事になるなんていうのはさすがに殆ど無いけれどね…でも、ゼロじゃないわ」
 一瞬、そう語る彼女の表情が歪んだ気がした。しかし、途端にすこぶる笑顔を見せると、さぁ行きましょうと歩き出した。何故だか俺は一度振り返り、先の二叉路を眺めてから、彼女の後を追った。

 洞窟は自然の物であったが、その内部にはある程度、人の手が入っていた。例えばそれは先人が残した道標であったり、渡りづらい泥濘の上に敷かれた板であったりしたのだが。
「えーと、ここ」
 ガコン。ジャネットが何の気無しに(と、俺には見えた)壁を触った途端、そんな音がして壁がずれた。その先には、今居るところよりも遙かに狭く天井も低いが、立派な、側道と呼べるものが走っていた。こんな仕掛けが有るという事に、「何故」という事への理由は幾らでも付けられるだろうが、「誰が」となると違ってくる。少なくとも、それだけの知識・知恵・力と理性を持った何かに因るものだ。その「何か」が、出来れば友好的なヒト(マンカインド)である事を、本能の部分で思う。
「さて、この奥には洞窟の主が居るわ。装備は万端?」
 ごつごつした岩肌を、体をくねらせながら何とか避けつつ、先へ進む。
「装備はまぁ…著しい破損なんかは有りませんけど、主、ですか。何者なんです?」
「そうね。端的に云えば」
 勿論、先程の仕組みの件もあり、俺の脳裏では色々な想像が渦巻いていたりしたのだが。
「タコ」
 つまりテュパンは、伊達に海産物の収穫量が多いという訳ではないという事だ。
 (因みに件の収穫量に付いては、旅の船上で読んだ「グローエス・タイムズ」の経済面による)

 まさか、あの仕組みは、あのタコを閉じこめておく事にあったんだろうか。…まさかな。
 館に戻るとすぐ、浴場に向かった。湯船にのんびり浸かりながら(時間が巧い事合致したのか、人気は少なかった)痺れの残る二の腕をさする。そして、洞窟奥での戦闘を思い返した。
 着実に斬りつけ、ダメージをタコ(サイズ的にはルリエフナイト並みだろうか。まぁ、どこからどう見てもタコはタコなんだが)に入れていったまでは良かったが、丁度俺の突き刺した小刀が目を突き破った時、(多分引きはがそうとしたんだろう)その吸盤まみれの脚に上体を絡め取られ、思い切り締められたのだ。直後、ジャネットによってタコは息絶えたのだが、彼女の力を借りても絡みついた脚はなかなか取れなかった(吸盤同士が貼り付いてたりもした)。
 額ににじみ出てきた汗に、湯船の湯を掬って顔を大雑把に流し、また、湯船にもたれ掛かる様に座り直す。

「ヒトって、補い合いながら生活しているじゃない?」
 洞窟を出た頃、ジャネットが零した。今、テュパン、いやグローエス全土には、数多くの冒険者が居る。熟練者であれ、初心者であれ、誰かが誰かを補っているという事実は変わらない。例えばそれは未知なる物への情報であったり、戦利品を市場オークションで融通することであったり。
「そういうのって、ふとした拍子に、なんだか感じ入るのよね」
 二叉路の合流地点。ジャネットが一瞬見せた表情を思い出す。
「ま、この稼業を続けるのなら、そのうちキミも思うのかもね」
 近いのか、遠いのか。それは未だ解らないけれど。

 ふと潜りたくなって、ざぶんと頭のてっぺんまで湯に沈んだ。ゆらゆらと揺れる天井を眺めてから、ゆっくり浮上した。

0005-02

「あれ、ひょっとして、今日最終試験なんじゃないの?」
 朝食を摂ってから部屋に戻る道すがら、やおらチャクが口にした。
「チャクは今日4つ目なんだろ」
「そうだね」
「俺とチャクは、俺の方が1つ先だろ」
「そうだね」
「じゃあ確認するまでもなく、そうなんじゃないか?」
「ん~、ひょっとしたら1日くらいのんびりするかも、とかね」
 お前じゃあるまいし、と、口の中だけで云う。
 まぁそれはひとまずさておいてね。チャクは云いながら、さておくジェスチャーを交えた。それを横目で見ながら、宿泊部屋の扉を開ける。
「んでさ、パーティの件は結局どう?」
 部屋の中は、カーテンを開け忘れていたので薄暗かった。窓際に行って、勢いよくカーテンを開ける。気持ちのいい陽射しが、部屋中に染み渡る。
「そう聞くって事は、そっちからみて俺は特に問題無いわけだ」
「ん。特には無いかなぁ。そうだねぇ、寝相が面白かったよ」
 …なんだって?
「寝相?」
「そう、寝相。キミってさ、ベッドを対角線に使って、それで両足だけ必ず上掛けから出してるの。多分夜中とか、眠りが深い時だけそうなんじゃないかな? 朝見たら元に戻ってるんだよ」
 あれ、知らなかったんだ? それじゃあぼくは良い事を教えたかもしれないねぇ。
 チャクはそういってにこにこと笑い、俺はといえば半ば呆然と自分のベッドを見ていた。…確かにシーツの寄り方が、若干、斜めになっている様な気もしないでもない。
「ねぇねぇ、それでぼくの質問は結局どうなったのかな」
「え、ああ、そうか。…いや、俺もまぁ、特には」
「そう。良かった。じゃあ講座が終わったら、よろしくね」
 差し出された手を握り返しながら、今後の道行きを思う。
 …少なくとも、新たな発見に困る事は無さそうだ。

0005-03 (0011)

 今までを考えるならば、やはり試験は実技なのだろうか。まぁ、待たされてるのが庭って事は、実技か。
 そんな事を考えながら、初夏に近づく陽光を浴びていた。ここは洋館の中庭だ。ベンチも有ったが、大きめの木の根本、草の丁度良く生えた箇所を選んで、そのまま腰を下ろしていた。かいた胡座に両肘を乗せて、ぼんやりと思考が走るに任せる。
 そういえば。ふと思い立って、顔を少し上げた。この中庭へ通された時の扉の前には、普段は確か布が垂れ下がって居なかっただろうか。そしてその布の前にはティーセットの乗った丸テーブルと、椅子が2脚。しかしアレは洋館で暫く寝起きをする様な者に解放されているものでは(少なくとも、気軽にそれらを使える雰囲気では)なかった。じゃあ、あの布と卓は何の為に? どう考えてもあれは、何も知らぬ者から、あの扉の存在を排除する為ではないのか。
 今から行われる事は確かに“最終試験”の名を冠されているのだから、つまりカンニングを防ぐ為ではあるのだろうと思う。しかし――
「お待たせ致しました」
 声に振り向くと、そこには。
「最終試験では、私と戦って戴きます」
 初見時、“よく云えば落着いた雰囲気”だと感じた筈の女性が、凛とした立ち姿を見せていた。

 今俺が目指しているのは、数日前に俺の講師を務めてくれた男が待って居るであろう部屋だった。
「あちらに」
 あの庭。慌てて立ち上がったまま、だが何をしていいのか全く解らない(情けない事だがテンパっていた)俺に、女性は、す、と涼やかな音を立てる様に指先を持ち上げ、出入り口――俺がやってきたものとは反対にある扉を示した。
「貴方の講師を務めて下さった方々が、それぞれ別室にて待機しています。最終試験にあたり、彼らから助力者を一人求める事を許可致します」
 そして、淡く光る白衣を纏った女性は淡々と告げる。自身の弱点、衣の効果、主な攻撃方法、装備による耐性。それらを一通り口にすると、指し示していた指先を、顔の前に立てた。
「現在より、最長1時間お待ち致します。貴方の行動を決定して下さい」
 頷くと、踵を返した。彼女が口にした情報を反芻しながら。

 扉には講座の順を示す数字が書かれていた。「3」と記された部屋の前に立ち、静かにひとつ、深呼吸をした。
 扉をノックする。その音が、やけに響いた様な気がした。

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