Entry

2004年05月

0011-01 (0022)

 今後の方針をどうするか。昨夜、宿へ戻ってきた俺達は、まずそこを相談した。
 つまり当面の目標というやつが、俺達には皆無なのだ。俺は何の当てもなくこの地へやって来たし、聞けばチャクも似た様なものだという。
「んん~、とりあえず、冒険者としての経験でも積もうか」
 その言に頷き、こうして今また、斡旋公社へやってきたというわけだが。
「大別して、護衛か狩りかだな。後は金持ちの道楽っぽいのが何点か」
「護衛って対象の街とかで別れるわけでしょ? 変に遠出する前に、暫くテュパンを基点にして、地理情報なんか集めながら~っていうのがいいんじゃないかな」
 手分けして、掲示板を埋め尽くす依頼群をざっと流し見た。一番目に止まるのは、やはり近隣の魔獣狩りや討伐隊のメンバー募集というもの。次いで、街から街へと移動する商隊の護衛要求。後は純粋な肉体労働(例えば荷運び)やら、ちょっとした屋敷の警備の様なもの等がぱらぱらと有る。
「腕試し兼ねて、ひとまず対魔獣系をこなすか。C難度くらいなら何とかなるだろ」
 依頼が書かれた用紙には、大きな判でBだのCだのと捺されている。公社が算出した推定難易度だ。自身の力量や冒険者としての経歴等を比較しながら検討出来る様にとの配慮なのだろうが、実のところその難易度というものがどういう基準で出されているのかは、明らかにされていない(例えば単純に体力的であるとか程度でも明文化してくれればいいんだが)。そこからは、依頼内容から出来るだけの情報を取得して、自己算出する必要がある。勿論、自衛の為に。
 取捨選択の後、上がったのは海蚊退治と“モルド”と呼ばれる化物の退治。二つを比較すると、前者は安い(75リーミル)が期間が短く、後者は高い(100リーミル)が拘束も長い。だが、前者の難度はBだが、後者はC。
 となると、駆け出し者としては当然──
「んじゃ~、蚊だよね、蚊。すいませ~ん、申し込みしま~す~」
 ……チャク。お前も、防御より攻撃を重視するタイプだな。

0011-02 (0023)

「海は広いぞでっかいぞ~行ってみたいぜ余所の国~」
「お前が十分余所者だろうが」
「ユキヤくんもね」
 テュパンの南側は、全て沿岸部に面している。その長い海岸線の1つ、“マルケラ海岸”と名付けられた辺りが、この依頼の目的地だった。
 潮流の関係で、このマルケラ海岸には様々な漂流物が流れ着くのだそうだ。勿論大半は役に立たないゴミだが、時折、珍品の類も見られるという。
「んで、なんだっけ。蚊を退治して証拠見せればいいんだよね?」
 チャクの言葉に、依頼書を取出し詳細情報を再確認する。
「正確には“巨大蚊”だな。どの位デカいのか、サイズまでは書いてないが」
「……んん?」
 前を行くチャクが止まったので、俺も自然、足を止めた。
「どうし…」
 云いかけて気付いた。右斜め前方、海岸線の奥。沖の方から、なにやら靄の様な塊が、こちらへとやってくる。
 いや、靄じゃない。それは多分、小さな物体の寄せ集まりだ。靄だと認識したのは、その集団を透かして向こうが見えるからで、かつ、奥の風景が何故かぼやけて見えたからだった。
「ぅゎっ、ちょっ、ぼく、依頼やめたくなってきた」
 選んだのはお前だ。しかし、口にしたのは別の言葉。
「そう思って気分がくじける前に、一息に焼き払ってくれ」
 ぽんと肩を叩いてから、俺はチャクから数歩下がった。
 慌てて印を作り出すチャクの向こうには、ぶーんと羽音響かせやってくる、海蚊の群れ。

「ああ~、さっきの見た? 微妙に焼け残ったのがぼたぼたぼたって。う~、んも今日夢に出そう」
 なんで全部灰になってくれないかなぁと、チャクはぶつぶつと零す。
 火の精霊(サラマンダー)の助力により、蚊の集団は屠られた。やはりこういう時に魔法は便利だと思う。あんなのをいちいち潰していくのは、それは面倒そうだ。
 対象の巨大蚊はまだ現れない。先鋒(?)としてやってきた通常サイズを焼き払った場所から十数メートル離れ(チャクのたっての希望だ)、俺達は砂浜に腰を下ろしていた。
「お前悪魔が見たいとかなんとか云う割に、ああいうのはダメなのか」
「だってあれムシだよ。ムシ。ぞわぞわするんだよ? おっきいのは別にこう細部がズームされる位だからむしろ見て面白そうだしいいけどさ、ちいさいのが集団なんてこう、ああ~、ぼくもう考えない」
 …人の好みは千差万別というが、それは単純なサイズ比較という条件にも当てはまるのだろうか。
「ユキヤくんああいうの全然平気なわけ? んも信じられないね。真っ当な人間?」
 なんて言い草だ。さすがに俺もカチンと来る。
「じゃあ訊くが、現れる個体数が同じとして、小さいゴキブリと大きいゴキブリとなら」
「うーわー聞かない聞かない聞かない。んも何その最悪の選択肢」
 チャクは両手で耳をぎゅっと塞いでから、大層恨めしげな目で俺を睨む。
「デカけりゃ見て面白いとか云ったのお前だろうが。たかがサイズの問題で嫌悪感に天地程の差が出るわけがないって辺りの確認をだな」
「じゃあユキヤくんはどっちがいいのさ」
「両方とも嫌に決まってるだろう。真っ当な人間だからな」
「んじゃアレとさっきの小さいの比較してみなよ!」
「…アレ?」
 びしりとチャクが指差した先には沖。そしてそこには、海上を浮遊する、遠近法を無視した様な、数体の。
「…………まぁ、嫌悪感よりは、驚きと呆れの方がデカいな」
「ほら見なよ!」
 喜んでる場合か。
 今回のターゲットである“巨大蚊”は、(その名に恥じぬ様な)直径数メートルと思われる巨体を、浮揚(ホバリング)から水平移動に変えた。

「2回も刺された!!」
 数体の集団からやって来た1体(多分斥候の役目だったんだろう)を伸している間に、他の巨大蚊には逃げられた様だった。依頼の元々の理由が「下手に繁殖されると面倒(この巨大蚊(ハイモスキート)も《虹色の夜》以降の産物だ)」というものであるから、殲滅出来れば良かったのかも知れない。しかし、依頼の達成条件としてそれが含まれていない以上、報酬等はしっかり払われるだろう。
「痒みが出てるなら海水にでも浸けたらどうだ?」
 因みに先程の叫びは勿論チャクの物だ。あいつは相変わらず向かってくる奴等の良い的になっている。
「今んとこ痒くはないけど、でも針がぶっといから絶対変な痕になるよこれ。ああもう、だからムシってヤなんだ」
 だからここに来るのを選んだのはお前で、さっきはデカいと楽しいとかなんとか云ってなかったか?
 勿論それは口には出さず、代わりに「その針、退治の証拠で持っていくから蚊から抜いてくれ」という台詞を口に乗せた。

0012-01

 涙が止まらない。
 泣こうとしている訳ではない。泣きたかった訳でもない。哀しい事も嬉しい事も無かった。それでも勝手に溢れてくる。喉は引き攣るしこめかみは痛むし鼻の奥が鳴る。
 涙が、止まらない。

 ──という、夢を、見た。

 上半身をベッドから起こした状態で茫とする。なんだ、今のは。頭を振ってから喉に手をやる。痛みは無い。夢につられて現実で泣き倒していたりはしていなかった様だ。
 漠然としたイメージだけが残っていて、その結果に至る理由ともいうべき部分が見事なまでに欠落している。なんともいえない後味の悪さ。そもそも夢で「泣いていた」のが「俺」なのかどうかもよく判らない。…なんなんだ、本当に。
 隣のベッドでは、チャクが相変わらず本にまみれて眠っていた。こいつはどうやら、就寝前に色んな活字を読み倒さなければ生きていけないらしい(まだ確認は取っていないが)。その対象は別に魔術書の類でなければならないという事はなく、単純な活字中毒の様だ。例えば俺が実家から持ってきていた何冊かの小説や、知らぬ間に荷物に入れられていたらしい冊子やなんか(恐らく家人が嫌がらせに入れたのだと思う)も、とうに餌食となっていた。今頃は奴のハードカバーの間にでも挟まっているのだろう。俺の本は元々読み倒しすぎていた本ではあったから手元にないこと自体は別に構いはしないのだが、あの扱いを見ると少々惜しい事をした気がしないでもない。
 顔、洗おう。出来ればシャワーが良いがそれは無理か。
 ベッドから這い出て、共有洗面所へと向かった。冒険者専用の木賃宿は、宿代が格安な分、そういった住みやすさ(アメニティ)部分については、制限が多いのだ。

「今日はどうしようか。んでも今日って云うか、今後かなぁ。昨日晩ご飯の時にさ、廻りのひとが喋ってんの聞いたんだけどね」
 ボンゴレの皿をつっつきつっつきチャクが云う。木賃宿でも基本的な朝飯を食う事は出来る(昼・夜は無い)が、俺達はいつも外に出て食べていた。勿論その方が旨いからというのもあるが、半ば観光も兼ねている。今日の様に屋根を構えた店に入る事もあれば、屋台で済ます事もある。
 一旦紅茶をひとくち啜り、チャクは喋々を再開した。
「テュパンってやっぱり人の流れが多いからなのか、辺りに出てくる亜獣もそんなに強くないらしいんだよね。んとねぇ、こう、他の勢力に負けてやってきたのが、この辺ならだいじょぶかな~みたいな感じで集まってるんじゃとかって云ってたけど」
「誰が?」
「近くでお酒飲んでたひとたち。けっこ色んなとこ行ってるっぽくてねぇ、どこどこがああであれそれがどうでって話をすごく自慢気にしてたんだ。またでっかい声で。多分いっしょにいた女の人口説いてたんじゃない? そんな血生臭い話で口説こうっていうのもなんかおかしいよねぇ」
「そういうのに酔う女が居てもおかしくはないが」
 云いながら、チャクの皿からボンゴレを少し拝借した。…この店、ドリア(俺が頼んだ)はいまいちだがパスタは旨い。次からはそっち側だな。
「ええ~。ぼくだったらやっぱりこうどんな凄いのを召喚したかっていうような」
 どっちもどっちだ。
「…で、チャクとしては余所で腕試しがしたいって事か?」
「うん。もうちょっとテュパンに居ても良いかなあと思ってたんだけど、そういう話聞いちゃうとどの位違うのか、ガゼン興味が湧いてくるよね」
 同意を求められても、俺には取り敢えずそんな欲望は沸かないんだが。
「まぁ、それじゃ今日もう一度何か依頼でもこなして…そうしたら、テュパンを起つか」
「そうだね。そうしようか。んじゃさっきのボンゴレの分、ぼくにもドリア頂戴?」

0012-02 (0024)

「まだ昨日のモルド狩りが残ってるな」
 掲示板に貼り付けられているメモを取ろうとした俺の腕を、チャクがはっしと止めた。
「…なんだ」
「その“モルド”ってなに?」
 成程、昨日の蚊で懲りたのか。
 メモを取って、内容に目をやる。これには勿論、あまり詳細な情報までは書かれていないが。
「このメモ書きを信じるなら、“テュパン東で数を増やしつつある化物”らしいな。虫の類かはどうかまでは判らない。──ん、これ討伐隊ってことは、集団行動か? 依頼主も五王朝の士団なのか。…面倒そうだな」
「んんんん~」
 長考に入ったらしいチャクに、確認を取る。
「どうする? どうやら集団行動らしいから、お前いつものように好き勝手は出来なさそうだが」
「ひどいなぁ~。ぼくだってやんなきゃなんないときくらいちゃんとするよ。…でもねぇ」
 どうやらよほど蚊の悪夢は奴にとって厳しかったらしい。少し、助け船を出すか。
「昨日の蚊の様に簡単に形状を分類出来るのなら、“化物”とは書かないんじゃないか」
 俺の勝手な推測だが。付け加えた言葉を聞いていたのか否か、チャクはぱあっと喜色を浮かべた。
「そぉうだよね! ん! ユキヤくんいいこと云うなぁ! じゃあぼく申し込んじゃってこようかなっ」
 俺の手からメモを奪って、受付へと勝手に向かうチャク。現金な。
 例えば、化物の脚だけが節足動物のそれだとか、小さいサイズで群れて現れるとかってこともあり得ない話じゃないだろうが、いちいち水を差す必要もないだろう。せっかく乗り気になったんだ。利用させて貰った方がいい。
 ……奴と付き合い初めてからこっち、段々腹黒くなってないか、俺。

0012-03 (0025)

「我々の目的はモルドと名付けられた粘塊質の物体の討伐である。討伐とはいえ、駆逐が最大目標であるが、現状それらは胞子による繁殖を行い、どんどんとその数を増やしている為にそれは困難の様相を呈する。モルドが、驚異的な繁殖スピードもさることながら人を襲うという性質を持つ以上、我々としてもおいそれと見過ごすわけには行かないが為に、今回諸君等の助勢を得る事となり──」
 云々。討伐隊の隊長様とやらの有難いお言葉が延々と続く。
 つまり要約するとこうだ。テュパンの街から東へと伸びる大街道、それと平行して現れる森林地帯、その中に棲み付き増殖を繰り返す粘塊質、モルド。これを出来るだけ叩きたい。
「ん~、胞子ってことは細胞分裂で増えるタイプじゃないんだ。良かったよねそっちで。分裂で増えるタイプなんて云われたら、打撃なんて全然出来ないもんね。殴るたんびに新しくなっちゃうし。一個ずつ焼くか凍らすかしないと倒せなかっただろうし」
 まったく良かったよねぇ。良いわけあるか。
 隊長殿の声を邪魔しない様呟かれたチャクの声にこれまた小声で返した頃、有難いお言葉は漸く終盤に差し掛かったらしかった。

 モルドが現れた際には出来るだけダメージを与えながらも、自らの身を最優先とすべし。そう締めくくられた後、俺達(全部で数十人の、小隊規模だ)は、さらに数人ずつのグループを組んだ後、森林内部へとばらけた。ばらけたとはいえ、声さえ張り上げれば十分連絡の取れる間隔しか空いていない。モルドを発見したらば、或いは誰かに何かあったらば、即座に廻りの人間がフォローに走れる様にだ。
「んね、ぼく重大な事実に気付いたんだけど」
 辺りに警戒の視線を向けながら、チャクがぽつり、口を開いた。俺は黙って、先を促す。
「ひょっとしてさ。──今日って、野宿?」
「だろうな」
 訝しげに声のトーンを落として訊いてきたチャクに、俺はあっさりと返した。今更何を云うのか。そんなもの、依頼書に書かれていた拘束時間を考えれば判る筈だ。
 しかし、その簡単に判る筈のものを、こいつは見事に見逃していたのだろう。ええええ~と不満げな声を上げた。
「ぼく今日本一冊も持ってきてないよ。んも~。失敗したなぁ~」
 ……どうやら、本が無くても(少なくとも)死にはしないらしい。
「お前、どうして毎晩あんなにしてから寝るんだ? 持ち運びの点から考えたって、あれだけの本、嵩張るだけで良い事は何もないだろうに」
「ん~、そうなんだけどねぇ、どうもぼくは」
 居たぞ! 群れだ!! 突然上がった叫び声に中断される。
「まぁ、そのうち訊かせてくれ」
「別におもしろいのでもないと思うけど、いいよ。そのうちね~」
 チャクは杖を構え、俺は脇差(先般市場で手に入れた)をいつでも抜ける様柄を握り、そして声の方へと走った。

 モルドは、確かに耐久性はない。一度ダメージを入れてしまえば、その動きを止める。だが。
「んも~、これやっぱり蒸発させないとダメ?」
 チャクの雷鳴召喚(コールライトニング)で飛び散った破片から。脇差に付いた僅かな液体部分を振り払った先の地面から。そいつらは、集約してまた1つに固まっていく。

あああああ。

明日(多分)、もう一度僕は一人決戦を迎えます。
辛友(※故意誤字)K嬢から(推定)にこやかに(推定モノジチを片手に)頼まれた物体。

秘書社長好きさんに50質
ttp://azu100.hp.infoseek.co.jp/oresita/hisho_shacho_50s.htm

……………………えーと。えええええええと
同じサイトさんに、「秘書好きさん用50質」っていう、秘書だけのがあるのにも関わらずこっちですか
つーか色々注文する前にまずブツを寄こせよ! WA終わったらやるから! 渡せって!
何、パッケージ毎送り返した俺への挑戦かキサマッ!? 俺だってあんなハコ家で捨てたくねぇんだよ!!
(しかも定形外+ポストに入らないから局まで持ってったんだぞこの野郎)

…あ、でも秘書好き用よりこっちの方が(質問的に)答えるの辛くなさそう?
(↑マインドコントロール)

SFCリンク

ファイル 24-1.png

ゼルダ莫迦ですから…

0013-01 (0026)

 叩いても叩いても、モルドは幾らでも形を元に戻していく。俺とチャクだけじゃなく、辺りの連中(多分同業者)も、段々とうんざりしかかっていた。移動しては殴り、殴り倒しては移動しという一連を、どれだけ繰り返しただろう。
 突然、モルドの動きが変化した。集まってる! それは誰が発した驚きの声だったか。個体数で勝負する事に限界を感じたのか、モルドの破片が続々とひとつに集まりだしたのだ。
「…あれに斬りかかるのは面倒そうだな」
「んん、一部分凍らす事は出来ても、全部ってのは大変そうだねぇ」
 喋りながら、俺は脇にいたモルドを散らし、チャクは目前のモルドを凍らせた。
 慣れてしまえばモルドの扱いは非常に楽だ。勿論切ってもすぐ戻るという点を無視した状態でではあるが。事実、今回チャクは何者からもダメージを負っていない様だった。……もしかしたら初めてじゃないのか?
「各員、巨大化中のモルドより待避!」
 胴間声が響いた。どうやら士団の人間の様だ。その男の脇から、1m程の筒を持った衛士が現れる。筒の先端には細長い紐。
「…あれ使っちゃって、この森火事にならないかな?」
「なんだって?」
 チャクはあの筒がなんなのか知っているらしい。問おうとしたら「熱気浴(サウナ)が好きならいいけど、そうじゃないならもちょっと離れた方がいいかも」と云い残し、自分はさっさとモルドから遠くへと移動していく。訳も判らず俺もチャクに倣った。
 巨大モルドの周辺が円形状に空いた。胴間声の男と衛士とが互いに頷き合う。すると衛士は筒先端の紐をぐいっとひっぱると、槍投げのモーションでモルドに向かって投げつけた。

「…アレ狙いでの掃討だってなら、先にそう伝えておくべきじゃないのか?」
「いいんじゃない? 誰も怪我してなさそうだし」
 モルドに当った筒はまず閃光を発した。それに思わず腕で目を庇うと、轟音と共に熱風がやって来た。細く目を開ければ、巻き上がる炎と蒸発していくモルド。そうしてまた、静寂が戻る。
「見ての通りだ」男が辺りの人間に向かって声を張り上げる。「モルドはある程度の損傷を与えると、ああして個体を守ろうとする。それを待って焼き尽くす。掃討は筒が尽きるまでだ。さあ! 次へ向かうぞ!」
 おおと腕を突き上げる男(一人で盛り上がってるな)の声に従って、他の群れを探しにその場を離れる。
「良かったな。働き次第で野宿は回避出来そうだぞ」
「んでも、筒って後何本あるのかわからないじゃん~。こんなに面倒だと思わなかったのになぁもぅ」

 結局、その後4度程轟音を響き渡らせたところで、掃討は終了した。したが、時刻は真夜中。テュパンに戻った頃には、見事に夜が明けていた。チャクはもう、昼過ぎまで寝るつもり満々らしい。今日テュパンを起って他に行くんじゃないのか?と釘を指しておいて、市場通りに差し掛かったところで別れた。オークションに入札をしていたからだ。
 さすがに眠い。俺も昼まで寝ようか。

0013-02

 うっわー! 叫び声の割に声量の小さなそれに起こされた。市場で競った品(といっても薬草)と、出品したもの(先日の木材)の料金を受け取りに行って一寝入りしようとベッドに潜り込んだのが多分6時少し前。現在時刻は、と部屋を見渡して、室内には時計が無い事を思い出した。
「ちょっと! ユキヤ! どうしよ! えっコレ何ッ!?」
「…リトゥエか?」
 どうやら騒ぎの主は、神出鬼没のこの流翼種(フェイアリィ)の様だった。まだしゃっきりしない頭を無理矢理起こし、掛け布にくるまりながら立ち上がる。
 そして、唖然。
「……………いつ拾ったんだ?」
「私より大きい物を、私がどうやって拾うの!」
 そりゃそうだ。しかし目の前の物体を見たら、誰だって現実逃避したくなるのじゃないだろうか。
 物体。
 淡いブルーグレーの体毛。
 ふわりと丸まった尾。
 くふくふと動く、薄ピンクの鼻。
 あたりをきょときょとと見回す青い瞳。
 そして、長い耳。
「………ウサギ?」
「孵ったんだよ! ホラアレ! 卵!」
 ──なんだって?
「ちょっと待て、なんだ、グローエスじゃウサギは卵から孵るのか?」
「そんなわけないでしょ! …あっいやでも今この子は卵から孵ったんだけどえっとでも」
 …状況を、整理しよう。
 目の前にはウサギだ。卵から孵ったとかいう辺りは取り敢えずどうでもいい。現在2足歩行をしながらふんふん辺りを見回すこのウサギ、多分分類上はディオーズの一種なのだろう。とすると、良く市場で流れている、愛玩動物としてのディオーズ、に、なるのだろうか。調教師ギルドなんてのはコイツらを使役して、戦闘に使える様にも出来るらしいとかって話だ。いやそこは取り敢えず良いんだが。
 …そういえば、結構高値で取り引きされていた様な。
「…売るか」
 寝惚けた頭で出た解答に、リトゥエが大きく騒ぎ出した。
「ええっ、いきなりその結論に行くんだ!? オニ! アクマ! 人でなし!」
「飼い方が判らん」
「その位! エサあげて遊んであげれば良いのよ!」
「…何食うんだ。野菜でも適当にやってりゃいいのか?」
「わかった! リトゥエさんに任せなさい!」
 お前が食われるのか? そう云いかけた俺に、「調べてきてあげるわ!」宣言したリトゥエは、そのままぴゅーっと窓から(文字通り)飛び出して行ってしまった。
 残された、俺と、ウサギ。
「……どうしろと?」
 掛け布にくるまって寝惚け眼で多分寝癖で跳ねた頭の風体の男が、ウサギとお見合い。…なんと奇抜(シュール)な絵面か。
 テュパンの観光協会は一体、何故こんな物押しつけくさったんだ。溜息を吐き出したところに。
「あー! ユキヤくん! なにそれそれなに!? うっわー! ふかふかだ! うわー!!」
 煩いのが、満を持して戻ってきた。

0013-03 (0027)

「“シフォーラビット”っていうらしいね。分類上は」
 何が面白いのか、俺の後をぴょこたんぴょこたんと付いてくるウサギ。体長40cm強。耳を入れたらもう少し伸びるだろう。
 一体何がどうなったら、卵から孵ったばかりの物体が即座に動けるどころかこんなにデカいんだ(何せ、卵のサイズ自体には特に変化が見られなかった)とか色々云いたい事は有ったが、全て“《虹色の夜》由来の突然変異”で片付ける事にした。いちいち考えてたらやってられん様な気がする。
「んね、どうするのユキヤくん? このこ、このまま連れてくんだ?」
「まぁ本人が付いて来てる間は、せめて面倒くらい見るつもりだが」
「へぇ、見かけによらず律儀なんだねぇ、ユキヤくんは」
 テュパンでペットフード(その名も「タマまっしぐら」。名前から想像する通りの猫用というわけでもなく、愛玩用ディオーズ全般向けとの事)を安売りしている店を見つけ、2・3食程度買い置きをしてから、街道へと出た。向かう先はルアムザ。五王朝の首都グローエス国の中心に位置する都だ。
「んでもホントびっくりしたよ。ユキヤくんにそんな趣味が合ったのかと思っちゃった」
 どんな趣味だ。
「んね、ぼくの卵は何が孵るかなぁ? 邪魔そうだけどちょっとドキドキだよね~」
 話に聞く限り、卵からは必ずこのウサギが孵るという事はないのだそうだ。それは例えば別のディオーズ(ピクシィとか)であったり、珍品の類であったりするらしい。その話を聞いた時、どうして俺の卵はアイテムじゃなかったのだろうと真剣に思ったものだ。
「そうだそうだ。名前付けてあげようよ名前。何が良いかな~。ふわふわっぽいのがいいよねぇ」
 どうせならこの男が飼い主だった方がよかったのじゃないかと、この構い方を見ているとつくづく思う。とはいえ、このウサギを見た時のチャクの歓声後第一声は「燻製にでもするの?」だったのだが(「ええ~、だって旅に出るって云ってたからさぁ~」と本人は云い訳していたが怪しいモンだ)。
「ええとねぇ、んとねぇ。そうだ! “アカフハフ”ってどう!? ふわふわっぽくない!?」
「却下」
「ええ~」
 いくらなんでもその無理矢理な語感だけの名前、(付けるのはまだともかく)呼びたくはない。第一云い辛い事この上ない。

 その後何度かチャクの命名案を却下しつつ(どうしてこいつはまともそうな名前を挙げてこないんだ。わざとか?)、現れたディオーズを伸しつつ(チャクが雷で威嚇して終わったが)、日が変わる前に、無事にルアムザに入る事が出来た。
 冒険者専用木賃宿は、ウサギの持込みが可能なんだろうか。

Pagination

Utility

Calendar

04 2004.05 06
SMTWTFS
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

Tag Crouds