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気が付いたのは、ベッドの上だった。少なくとも自分が寝泊まりしていた部屋ではない。なぜなら窓から中庭が見えたから。宛われる寝室・客間等は全て館の外側に窓が有ったので、どうやったって部屋からは中庭が見えるわけもない。そういった事を認識した途端、結果だけは取り敢えず悟った。
まぁ、つまり、落ちたのだ。試験に。
上半身を起こした。少しふらついてる気はしたが、多分それは寝ていたからで、外傷の所為では無いと(朧気ではあったが)直感した。大きく大きく息を吸って、細く長く吐いた。大分意識がはっきりしたところで、脇机に乗った水差しとグラスに気が付いた。手を伸ばし、水を注ぐ。するとかちゃりとドアが鳴り、受付の女性、つまり最終試験の試験官――講師達の云っていた、メイア。それが彼女だった――が入ってきた。
今回は残念でした。第一声がそれだ。助力者の選択は悪くなかったかと思いますが、ご自分で敗因はおわかりですか? と。ええまぁ、なんとなく。口の中がやけに乾いていたので、水を一口飲んでから答えた。
「攻撃方法にばかり目が行って、撃たれ弱さというものを軽視していました。魔法使い同士なら、魔法に対する耐性は戦士より上なんじゃないかと、妙な認識が有って」
耐性という言葉の掛かる物が知識で有れば正解だろうが、ことダメージという点については、他のクラス同様防具や基礎体力等に因るのだと云われた。ともすれば、戦士系のクラスの方が“堪える”という事に慣れている為、乗り越える確率が高いのじゃないかと。それを聞いて、俺の二者択一は、少なくともひとつ前の段階までは正しかったのだと踏んだ。そう、二者択一だ。ベルグにするか、それとも――という所までは、実にスムーズに思考を走らせる事が出来たから。
「貴方の能力に見込がないとは思いませんよ」メイアの口調には、多少なりと慰めの色が見えた。「私があの魔法を使うまで耐えてらしたことからしても」
ですが試験の合格基準は、私が気絶する事でしたから。そういう彼女に、俺は曖昧な笑みを返すしか出来なかった。何せ俺が受かる可能性を真っ先に潰したのは他でもないこの人の一撃だったからだ。初撃、走った光にベルグは吹き飛ばされ、そこであの男は気絶した。海老やら蟹(と、俺の髪少々)を焼いた炎の魔法頼みだったのだが、その希望は見事、開始五秒で潰えた。
それからは何とか一太刀、という思いのみで動いた。試験の開始を告げられる数瞬前から感じられた威圧感は未だに残っていた(どころか増していた)し、それをはね除けてどうこう出来るだろうという思考が持てる程、俺には自信も無謀さも無い。
俺が4・5合(だと思う)打ち掛かった後だろうか。突然大きなエネルギーの塊(多分、辺りに漂う魔力の集合体)に、肌がヒリつくのが解った。解ったと同時に、衝撃らしき物が体というより脳に走り、それを反射以外で認識する前に視界が多分暗転して、意識も消えていた。先程から多分多分というのが多いのはつまり、その辺曖昧にも程があるからだ。
今回のは、運もありました。そう云う彼女に、運も実力のうちと云うんだから、俺にはまだ実力が足りないんですよと苦笑した。
「では、実力を付けてからまた、是非いらして下さい。挑戦をお待ちしています」
メイアが出て行ってから、もう一度布団に潜り込んだ。養成所を出るのは、もう少し体調を戻してからでも遅くない。