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Tag: 商隊護衛

0018-01 (0036)

 昇り始めた朝日に漸く空が白んできた頃、商隊の馬達が動き出した。
 幌付きの荷馬車は全部で2台。俺達が居るように云われたのは2台の内後ろの1台、荷物の多く乗っている方だった。そこから2人ずつ交代で、幌の廻りの警護を行う。前方の幌には、全体の指揮を執っている男とこれも日雇いらしい荷運びの連中が収まっていた。
「ラズハイトから刀剣類を運んでいるんだ」
 依頼主たる男はそう云っていた。これから向かう先はテヌテという街で、すぐ側には泥海の広がる土地に有るらしい。
 いまでこそ泥海だが、元々は澄んだ水を湛えた湖だったのだそうだ。だが、これもやはり《虹色の夜》以降、その姿を180度変えたのだという。ある種の《現出》と云ってもおかしくないのかもしれない。
「んまあ、襲われないで旅が出来てお金も貰えたら御の字だよね」
 荷物の隙間でふあああとチャクが大欠伸した。同じ幌に乗り合わせている大男(多分俺達が不義を働かない様に見張っているのだろう)が、ぎょろりと片目だけ開けてチャクを見たかと思うと、再び瞼を落とした。
「眠いなら、マリスと代わって外を歩いたらどうだ。醒めるかもしれないだろ」
 道には、俺かセンリ、そしてチャクかマリスのうち、どちらか一方ずつが必ず出る様にしていた。前後衛のバランスの問題だ。
「んん~、でも、そこでこう、“今の内に寝ておく”っていう選択肢も有るんだよね~」
 順調に行けば、遅くとも明日の夜明けには着くだろうという。俺としては、どちらかといえばこの退屈な時間の方がなかなかきつい(“万が一”を考えると、おちおち体を動かす事も出来ない。暖めておく程度は確かに必要ではあるが)。チャクの云う様に、寝ておいた方が無難かも知れないなと、既に俺にひっついた状態で丸くなっている毛玉を見ながらぼんやり思った。

0018-02 (0037)

「ログレブルにはお宝が眠ってるって話も一応はあるな」
 人と馬を休める為にキャンプを張っている時、商隊を束ねる男がそんな情報を寄こした。
 澄んだ湖から淀んだ泥海へ。そういった変化が有れば調べてみたくなるのが冒険者の常という奴で、その泥海ログレブルにも時折お宝目当てにやってくる者が居るのだという。但しあまり成果の見られた試しはないのだとか。
 お前さん達テヌテについたらどうするんだい? 問われたので、素直に特に予定は無い事を伝えた。
「ならせっかくだから、ログレブルまで足を伸ばしてみちゃどうだい。今までろくなもんが見つかってねぇって事は、今度こそ何か有るかもしれねぇってこったろ」
 “本当に何も無い”という可能性を誰も考えないというのが、所謂冒険者精神の現れなのだろうなと思う。

 テヌテは隣国ノティルバンとの境目であるタラス山地の裾野に広がっている。多分その山裾へ近付いた方にでも、泥海ログレブルが存在しているのだろう。調べていないから、正確なところは判らないが。
 何事もなく着いちまったなと、依頼主が苦笑混じりに愚痴をこぼした。俺達を雇ったのはそもそもただの“おまもり”の様なもので(商隊自体がそう大きいものでない事から、野盗やらに襲われる率もその分低い)、それであればこその値段設定だったのだろうとは思うが、やはり余計な食い扶持増やしただけだったという結果からみれば惜しくもなるのだろう。
 荷はこれから街外れの工場へと持っていくらしい。お前さん達は冒険者用の宿だろう? という問いに肯定を返すと、テヌテの中心近い位置にそれが有る事を教えられ、「だったらここで別れた方がいいな」と、報酬の入った麻袋を渡された。
「ひとまず先に、宿を取りに行きましょうか? もう遅いし、後はご飯食べるくらいよね」
 センリの言葉に頷いてから、街中へと入っていった。高地独特の澄んだ空気は、丸い月をより鮮やかな金色に輝かせていた。多分明日の朝は冷え込むのだろう。

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