0005-03 (0011)
今までを考えるならば、やはり試験は実技なのだろうか。まぁ、待たされてるのが庭って事は、実技か。
そんな事を考えながら、初夏に近づく陽光を浴びていた。ここは洋館の中庭だ。ベンチも有ったが、大きめの木の根本、草の丁度良く生えた箇所を選んで、そのまま腰を下ろしていた。かいた胡座に両肘を乗せて、ぼんやりと思考が走るに任せる。
そういえば。ふと思い立って、顔を少し上げた。この中庭へ通された時の扉の前には、普段は確か布が垂れ下がって居なかっただろうか。そしてその布の前にはティーセットの乗った丸テーブルと、椅子が2脚。しかしアレは洋館で暫く寝起きをする様な者に解放されているものでは(少なくとも、気軽にそれらを使える雰囲気では)なかった。じゃあ、あの布と卓は何の為に? どう考えてもあれは、何も知らぬ者から、あの扉の存在を排除する為ではないのか。
今から行われる事は確かに“最終試験”の名を冠されているのだから、つまりカンニングを防ぐ為ではあるのだろうと思う。しかし――
「お待たせ致しました」
声に振り向くと、そこには。
「最終試験では、私と戦って戴きます」
初見時、“よく云えば落着いた雰囲気”だと感じた筈の女性が、凛とした立ち姿を見せていた。
今俺が目指しているのは、数日前に俺の講師を務めてくれた男が待って居るであろう部屋だった。
「あちらに」
あの庭。慌てて立ち上がったまま、だが何をしていいのか全く解らない(情けない事だがテンパっていた)俺に、女性は、す、と涼やかな音を立てる様に指先を持ち上げ、出入り口――俺がやってきたものとは反対にある扉を示した。
「貴方の講師を務めて下さった方々が、それぞれ別室にて待機しています。最終試験にあたり、彼らから助力者を一人求める事を許可致します」
そして、淡く光る白衣を纏った女性は淡々と告げる。自身の弱点、衣の効果、主な攻撃方法、装備による耐性。それらを一通り口にすると、指し示していた指先を、顔の前に立てた。
「現在より、最長1時間お待ち致します。貴方の行動を決定して下さい」
頷くと、踵を返した。彼女が口にした情報を反芻しながら。
扉には講座の順を示す数字が書かれていた。「3」と記された部屋の前に立ち、静かにひとつ、深呼吸をした。
扉をノックする。その音が、やけに響いた様な気がした。