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Tag: 砂塵の街タレス

0016-04 (0033)

 足下には、毒々しい蜘蛛の死骸が2つ。ぱたぱたと砂埃を払う仲間が3人。そして、唖然としたまま直立している、俺。
「……さっきのは、一体?」
「さっきのって、どれの事?」
「いや、アンタが、杖で」
「別におかしくないじゃない。魔術の媒介にだけ使うなんて勿体なさすぎるもの。いい樹だわよ、これ」
 せっかく買ったのだから、無駄に劣化させる前に使わなきゃ。云って、センリはにっこりと笑った。

 タレスは砂漠に囲まれた街だ。正確には、《虹色の夜》により、砂漠に囲われる事となった街だった。であるからして、タレスに向かうには自然、砂漠の中を行かねばならない。
 幸い、先人が立ててくれた旗を目印に進む事が出来ていたので(砂嵐にも耐えうる様、旗は目立つ様に鮮らかな朱だ)そこに困りはしなかったのだが、一歩一歩毎に足を取られる為に、体力の消耗が激しかった。
 そこへやって来たのが、件の2体の蜘蛛であるのだが。

「センリは元々、戦士あがりなんですよ」
 タレスでの遅めの夕食の際に、マリスがそう教えてくれた。
 その蜘蛛は下手に触ると変な菌が移るから気をつけてね~と云うチャク(ちなみに、所属ギルドの変更は街をでる前に済ませた)の声に、どうせなら俺が動く前に云ってくれと胸の裡で毒突きながら蜘蛛の背後に回ったのだが、そこでもう一匹に目をやった際見えたのが、センリの一閃だった。いや一閃というよりも一発、いや、一殴りだろうか。
 魔法を撃つ為に掲げられた様に見えた杖は、もの凄い勢いで傾斜を瞬間的に90度以上下げた。ぼこりという鈍い音と共に怯んだ蜘蛛に、すかさずチャクの雷撃が突き刺さる。そして蜘蛛、昇天。
 ちなみにそんな光景が視界に入った俺は、呆然としながらも機械的に蜘蛛の頭を突き刺し、体液が触れる前に飛び退いていた。反射と習癖というものにここまで感謝した事はない。

「いやー、ねぇ、4人になると楽だよねぇやっぱり」えへへーと呑気に笑いながら、チャクはベッドで本にまみれている。「こう、安心感っていうの? なんかそういうのが上がった感じ」
 やっぱりぼくの読みは正しかったよ~と云うチャクを見ていると、奴の“上がった気”がしているのは、人任せに出来る率なのじゃないのかとぼんやり思う。
「んで、ユキヤくんどうするの、調教師ギルド」
「明日の朝イチに行って来る。その間に今後どうするのか決めておいてくれるか」
 云って、ウサギを引っ掴んで部屋を出た。俺もそうだが、このウサギも毛の間の砂埃の量はたまったものじゃない。

0017-01

 ギルドで教えられたのは、調教対象の動物に対する向き合い方だった。
 つまり、極論すると。
「エサを与えつつ、適度な運動が必要らしい」
「ふつうじゃん」
 宿に戻ってきた俺は、チャクにせがまれ調教師ギルドの話をしていた。その感想がこれだ。とはいえ、俺の感想も大差ないのだが。
「下位クラスだから仕方ないといえばそれまでの様な感じだったな。今後、専門的な知識の必要な──例えば獰猛なタイプの奴だとか、爬虫類だ鳥類だとかの分類だそうだが、そういった話が組み込まれていくらしい」
 つまり、テイマーギルドにおける中位だ上位だのクラスというのは、要するにそういった種別毎の専門家になるということだった。
「そっか、ふつうの猫とか犬ならなんとなく解るかもけど、突然ディオーズのウサギを使役しろって云われてもむつかしいよね」チャクは一頻りうんうんと納得するように首を振った。「んで、ユキヤくんはこのウサギ、どうするの」
 どうと云われても困るが、そうだな。
「特殊能力が有るとかいうのは判ったが、それを俺が自発的に使役できる方法ってのは無いらしかったな」
 特殊能力!? 俺の言葉にチャクは過敏に反応した。
「凄いねウサギ! なになになに、どんなの?」
「寝かす」
「なにそれ」
 言下の俺の回答に、これまたチャクが言下に返した。ので、先程得た知識をそのまま披露する。
 要するに、肺とは別に眠くなる成分(アルファ波の出でも良くするんだろうか)をたんまりと溜め込んだ呼気を吐く事の出来る器官があって、それを空気の流れに乗せる事で、息の混じった空気を吸った者が眠りにつく事が、
「あるのかもしれないそうだ」
「なんでそんなすごい仮定形なのかな」
「効き方に個体差があるって話だと思うが、それにしたって曖昧だったな。…まぁ取り敢えず、コイツの存在価値は見出せた訳だ」
 ウサギの耳の付け根を指先で掻いていた俺に、チャクがにまにまと笑みを浮かべる。何だ?
「んんん。ユキヤくんは素直じゃないなあって思ったんだよ」
 …何かとてつもない含みは感じられるが、無視する事にした。

0017-02 (0034)

 異端査問官(インクイジター)というクラスは、光のちからで闇のものを征することに重きを置くものだそうだ。いや、まぁ、そんな事はどうでもいい。
「あ、マリス、服変えたの?」
「ええ。クラスチェンジもしたし、ちょっと気分を変えてみるのもいいかしらと思って」
「へぇ~。かっこいいかっこいい。とっても似合うね。ねえユキヤくん」
「ああ、そうだな」
 んもなにその面白くない感想はとかなんとかチャクが云っていたが、それもどうでもいい話で、つまり、俺はその方向に免疫が無かったんだなとそういう話なんだが、何を云いたいんだか判らなくなってきた。ふと足下に目をやったら、ウサギがてててとマリスの足下に寄っていってじゃれついていた。これまで気にしたことは無かったが、お前ひょっとしてオスか。
 服の事は良く判らない(どういう形のモノをどう呼ぶとかそういう話だ)から、マリスが着てきた服がどういうものなのかもよく判らないが、それでも、鮮らかな緋の引き締まった長いスカートは、先般まで着ていたゆったりしたローブ(確かイテュニス神を崇める神殿で貰った物だとかなんとか)との差違も相まってか、とてもよく似合っていた。その位は判る。
「さーて、それじゃ全員揃ったし、出発しましょうか。……ユキヤ? ウサギばかり眺めてどうかした?」
「ああ、いや。別に」
 だから何が云いたいかというと、(重なるが)俺はそういう、つまりこうぱりっとしたというか凛としたというかそういう類側の抵抗性が無かったんだなという話で、決して性癖がそうだとかそこまで行く話じゃないと云う話だ。話話って文法までおかしくなってるな、いや文法じゃなくて単語の選び方か。この際どうでもいい、とにかく頭をさっさと切り換えよう。
 もふもふと床板の匂いでも嗅いでいるらしいウサギの首根っこ引っ掴んで肩に担ぐと、既に出て行っていたチャク達を追う為、足早に宿を出た。

 ひとまず4人で過ごすに辺り、戦闘での癖であるとかそういう辺りをお互い把握したいという事(と、ついでに金稼ぎ)で、ガレクシンに戻ってから、公社で仕事を得る方向で話が付いていた。互いに今までどんな依頼をこなした事があるのか、これまでどうしていたのかをざっと話しながらガレクシンへと向かう。
 途中、吸血蝙蝠と大烏の編隊(というより、烏は蝙蝠がエサを捜すのを利用していたのだろうが)に出会したが、なんなくこれを仕留めて(今回はセンリが魔法を使ってマリスが殴っていた。……何故この二人は手ずから殴りたがるんだ)、無事、夕刻前にガレクシン入することが出来た。宿を取ったら、早速公社へ向かおう。

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