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(勝手に)補完計画・ホテルの四人

「あ!」の人作成。オールキャラ(大成と太郎除く)。太郎ルートにおける拉致られ四人衆。

 不気味なほど容易く最南端の町に着いた為に、少し緊張を緩めていたかもしれない。
 バラついた足並みを嘲笑うかのように、襲撃は突然だった。
 大成と太郎が金を持って逃げ切れただけ、まだ天には見放されていないと信じたい。

 連れて来られたホテルの一室で、十一は殴られた腹や顔の痛みを無視して視線を巡らせた。
 部屋には、入り口に続く正面のドアのほかに、寝室と恐らくバスルームへ続くドアが2つ。
 玄だけが椅子の上に座らされて、他の3人は部屋の隅に集められていた。
 相手は4人。人数だけなら五分だったが、それぞれ後ろ手に両手と、ついでに両足をガムテープでグルグル巻きにされた状態では抵抗には無理がある。それに、さっき散々人のことを殴ってくれたもう一人の男が島田と菊男を連れて戻ってくるまでそう間がないはずだった。
 自力で逃げ出すのは絶望的――十一は、こみ上げる笑いを押し殺す代わりに、喉元で暢気な声に変換した。
「助けてー、ムーゥミーン」
「な、何言ってんすか、人選間違ってますよ」
「たすけてートトロー」
 十一に一伊が突っ込むとすかさず反対側の二志が平板に呟く。
「……あ、トロールつながり?」
「わかりにくいっすよ」
「お前ら、顎へし折られたいのか」
 緊張感のないやりとりにおっさんの一人が苛立った声を上げた。それでも実際にやる気はないらしく誰も動かない。もしかして一網打尽できなかったからへこんでやがるんじゃない、と思えば気分が良い。
「……」
 3人がほぼ背中合わせになった状態で、右後ろの二志が微かに身じろいだ。
「振り向くな」
 ほとんど聞き取れないほどの小さな声で囁かれて、思わず出掛かっていた「いやん、こんなところで」という台詞を飲み込む。
「ケツに携帯。よこせ」
 簡潔で短い指示に、頷くことはしないで比較的自由になる指を伸ばす。
 わざわざ人に頼むくらいだから、二志の手の拘束はかなりキツイのだろう。携帯渡したところで操れるのかよ、と思いながら、声に出して聞いてみるわけにもいかない。
 布越しの硬い感触をなぞって、上着の裾をそろそろとめくる。こんな状況なのに卑猥な行為を仕掛けているような気分になるのがおかしかった。
 手首だけを限界まで伸ばしてもそれ以上は届かなくて、気付かれないよう姿勢を変えて肩を下げる。二志がじりじり体を密着させてくるのが伝わってきた。
 息をそっと止めて、爪先に引っかかったストラップをたぐり寄せる。
 抵抗がかかったところで一拍おいて紐を握りなおし、ゆっくりと引き抜こうとしたとき、正面のドアが開いた。
 島田と菊男、それにガタイの良いさっきの男が入ってくる。
 男は椅子に座らされた玄の隣に立ち、島田と菊男がその正面のソファに座った。

 後ろの二志に急かすように小さく舌打ちをされて、細心の注意を払って二志の尻ポケットから携帯を抜く。
「お前が玄か」
 島田が口を開いた。誰もこっちを見ていない。
 後ろ手のまま手の中の携帯を思い切り差し出すと、柔らかい感触があった。そのまま指先で弾くように携帯を押し出す。
 二志の手の中に落ちた小さな音がして、思わず首を竦めて様子を窺うが、うまく島田の声にかき消されてくれたらしい。
「随分手間かけさせたな。金どころか倉庫丸ごと持ってくなんてなぁ」
 溜めていた息を細く吐きながら、倉庫丸ごと、の言葉に顔を上げると、後姿の玄も疑問を感じたらしく首を傾けた。
「……倉庫?」
「今更とぼけてんじゃねぇぞ。ここ来るまで4箇所、――」
 島田の代わりに口を開いた男が続ける地名の中に、一つだけ聞き覚えのあるものがあった。あの、菊男が放火して、太郎が撃たれた倉庫。
「わざわざ火ぃまで点けやがって、全部パーだ」
 ビンゴ。口笛を吹きたい衝動に駆られて眉を寄せる。
 どうやら他の3箇所とやらも菊男が同じようにしたんだろう。まんまと濡れ衣を着せられたわけだ。
 その菊男の顔は立っている男と玄の陰になっていて見えなかった。
「……知らない」
 律儀に答えた玄に逆上したのか、男が玄の顔を張った。
 痛そうなでかい音が響いて、存在を忘れかけていた左後ろの一伊の体がびくりと震えた。完全に静かになってたから現実逃避の世界にイッちゃってるかと思った、と失礼なことを考える。
 震えだした一伊に合わせるように二志が身じろぎをして、注意を向けた瞬間手にプラスチックの塊がぶつかった。
「――っ」
 慌てて跳ね返って落ちそうになった携帯を掴む。こっちの手の位置に見当つけて放ってきたらしい。
 ちょっとあんまりよ――!と心中で叫ぶ。返して来たって事は用は済んだんだろうが、この場合バレたらボコられるのは俺になってしまう。
 後で文句言わないと。ひどいわ。人でなしだわ。
「で、金とブツはどうした?さすがにこの短期間でお前らにさばけるとも思えねぇが」
「……コレ、こいつの携帯ですね」
 一瞬ひやりとした、がどうやら玄の携帯のことらしい。手の中の二志の携帯はウエストに挟み込む。
「どぉれ」
 島田に差し出されたのを菊男が横から奪うように携帯を受け取って、操作し始めた。男の背中が明らかに不満げに揺れたところからして、菊男はやっぱり信用されてないんだろう。協調性ゼロっぽいもんね、と妙に納得してしまう。
 また笑いの発作がやってきて、奥歯を噛んだ。
 胃の中全部吐き出したいような嘔気がない分だけ、興奮した神経は取り巻く全てを交ぜっ返したくなってヒリヒリ疼いた。

 電話が繋がったらしい。
 菊男の声は場違いなほど楽しげだった。
「……よーぉ、調子はどうだぁ?」
 当然話し相手の声は聞こえない。大成なのか太郎なのか、どっちにしたって交渉人には向かないタイプだよな、と後ろ向きな思考をする。
「生きてんぜぇ。今んとこはな。まぁ、話は解ってんだろぉ?」
 組んだ足をゆらゆら揺らしながら、菊男が笑う。
「――そうさなぁ、今夜9時。埠頭に金持ってきなぁ。持ってこれなきゃぁ、当然アウトだ」
 言い終わったすぐ後に、菊男の足が止まった。
 携帯を耳から離して画面を見ているのが、男が体をずらしたことで見えるようになる。
「なんだ」
「ひゃっは、切られたぁ」
 菊男が笑い出した。
 その調子の外れた笑い声につられるように頭の中が白くなって、昔懐かし黒電話の受話器をガチャンと叩きつけている大成の動画が流れ出した。
「え、ふつーなんかもっとない?場所探るとか俺らの声聞かせろとかさ――」
 突っ込み衝動を抑え切れず、気の抜けた感想を漏らしてみる。
「……役に立たねぇ奴ら」
「ま、大成とたろだしねぇ」
「ぇ、え、じゃ、もう……」
 冷ややかに二志が吐き捨て、十一がしみじみ嘆くと一伊は半泣きのような情けない声を上げた。
 二志が携帯で連絡したのがあいつらなら、こっちの無事も居場所もわかってたからのご無体なんだろうけど。
 いや、馬鹿だしな。勢いでうっかり、とか。
「俺らどうなっちゃうのかしら」
 自分でも本気だか冗談だかわからなくなってきた切ないため息に二志が鼻で笑った。
「死ぬだろ」
「ぇー……いやん。あたいまだ花も盛りの生娘なのにー」
「散れ。即座に散れ。むしろ真っ先に死ね」
「――なんでこの状況でふざけられるんっすか……」
「チッ……っせぇぞガキ共!」
 無精ひげの男に凄まれて口を閉じる。

 笑いを収めてもまだにやついている菊男に、島田が渋い声を上げた。
「……ガキから引き取って始末すれば仕事は終わりだ」
 苦々しい顔に対して、菊男はどこまでも上機嫌に返す。
「やっと俺と離れられてせいせいするってかぁ?」
「……、せいぜい勝手な真似しないでもらいたいもんだな」
「――はっ」
 菊男がゆっくりと立ち上がり、歩き出そうとして一瞬十一と二志の方を振り返り、にやぁ、と笑った。
 バレてたか、と思ったがそのまま部屋を出て行く。島田も舌打ちしてそれに続いた。
「ガキ見張っとけ」
「はい」

 これ、見張っているといえるわけ。
 タイルの天井を眺めながら十一は首を傾げた。結局、図体がでかくて邪魔だからと狭いバスルームにぎゅうぎゅう押し込められている。
 暇なので一伊やら二志やらに雑談をしかけていると、一度だけいかつい男が現れて煩いと殴られ、全員口をガムテープで塞がれたが、それっきりだ。
 やけに時間が進むのがゆっくりに感じられる。
 バスルームに移されるときに携帯を没収されたので、いよいよやることがない。ガムテープを剥がそうと地道な努力をしてみたりする。


 タバコ吸いてぇ、と手首を擦りながらふと思う。

 有害無益な嗜好品を手放さずに寿命を縮めているのは、やり切れない後悔への代償行為だとわかっていた。
 こんな遊び――とっくに遊びの領域はぶっちぎってるけど――追われて走り抜けるスピードに酔って、手放しゃいいだけの危険な荷物を抱え込んで、南を目指す非日常の快楽にしがみ付いてんのは。
 変わらないままダルく生き続けてる自分は死ねばいい、たぶんそれ位のちょっとした動機だった。
 分別のないガキって年でもないのに、馬鹿騒ぎが楽しくて降りられなくて、これで死ぬならみんな自業自得だから丁度良いと思う。

 二度と会うことはないかもしれない幼馴染の情けない顔を思い浮かべた。どうせ今頃へこんでるんだろう。
 日はもう落ちただろうか。

一方その頃、大成と太郎は。
気持ちよく健やかにイビキをかきながら寝こけています。十一ざんねん。

大成と十一は言動似てるから思考も同じかというと、きっとそうでもなさそう。十一は茶化してるけど大成は素で変というか。

そして、大成が「破滅主義なのかも。気をつけたい」風なこと言いますが、こいつら全員多かれ少なかれそうですよね。
ほんとに勢いだけで後に引けなくなったわけじゃなくて、一回立ち止まって考えたのにやっぱり進むあたりとか。

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