罪と罰
大成は、莫迦だ。
昼休み。食堂や生協から遠い位置にあるこの喫煙所は、人気が少なく重宝していた。
外壁に隣接するようにおざなりに置かれたベンチに腰掛け、偶さかポケットに入っていたソフトケースの煙草とライターとを取り出す。昨日、学友とちょっとした賭けをして手に入れた戦利品だった。
火をつけ、煙を吸い込んで、思い切り吐く。
身体に入ったニコチンと、煙草の先で燻る煙を見ている時間とが、思考をクリアにしていく。
確かに、最初に仕掛けたのは、俺だ。
けれど。
…大成は、莫迦だ。
――― なあ、もうやんねえの。
――― 何を。
――― エロい事。
選択肢を残したつもりは無かった。
ただあの時、少なくとも時間軸でなら死に一番遠い場所に居たのが俺で、そして大成は、自らその腕に抱かれるように向かう事になり。
大成が死ぬ前に、何か出来る事があるだろうかと考えた時、最初に浮かんだのが。
全ての色が抜け落ちたような目で、ぼんやりと、だが確実にアフロを射抜くように見詰めその眉間目掛け銃を構え。
地べたから見上げた、どこか霞んでぼやけた視界の中、精気のない―――
あの、表情だった。
カオが見たいと、思った。
普段の腑抜けたツラと、しょうもねぇ笑い顔と、これから愚痴でも吐き出します的な憮然とした様と―――
今までに見た、それら全てに当てはまらないカオを。
どうせ非日常、非現実。拒まれればそれまで、いつも通り流されれば、それはそれ。
拒まれない自信が無かったと云えば嘘だ。大成の転がし方は、あれで幾らでも存在する。
俺のこの挙動に気を取られて、目の前に転がった自分と他の奴のデッドエンドから目を逸らせればベスト。どうせ一時に二つ以上ベクトル持ってモノ考える人間じゃない。連中の奪回に対するコンディションが悪くなることは無いだろう。
―――そんな云い訳まで瞬時に考えて。
伸びていた煙草の灰に気付いた。
脇の灰皿に落として、再び煙を吸い込む。
…大成が死ぬことを、どこか前提にしていたんだろうか。
連中の誰にも、まかり間違っても欲情しようと思ったことは無いし、受動的にそんな気が起きた事もない。
やろうと思えば出来るだろうが、ただそれだけだ。行動に起こす必要はない。
この、今そこにある“関係性”という大きな存在の中で俺の場所が変わってしまうなんて事と引き替えにするような事は、どこにも無かった筈だ。
気持ちの良い関係、と大成は云った。今のこの一見してぬるま湯の様な、けれどその実底なし沼になっている筈の、関係と状態とを。
セフレとか、ましてや恋人なんて関係、俺はあいつに求めたくはない。そんな括りの中に浸かりたいとは思わない。
気の置けない仲間で、悪友で、戦友で、…俺にはない環境を持っている、別々の木だ。それが一番いい。
――― ちなみに、許容範囲ってここまで?
――― お前の?
――― お前の。
あんなの、異空間で異次元の出来事だ。今ある日常に連れてくる必要なんか欠片もない。寧ろとっとと捨ててしかるべきだ。
それを、あの莫迦は。
……違うな。
腹立たしいのは、どこかそれに甘えとか利便さとかいう様なものを感じている、俺自身だ。
結局ろくに喫わなかった煙草を、灰皿に押しつけて立ち上がる。
このまま無駄に思考を走らせて、それで自分が暗示に掛かるような真似だけは真っ平だ。
今この状態に持ち込んでしまった原因が俺にあるなら、俺が取り除かなきゃならない。それがどれだけ退屈で面倒臭かろうと。
ゆるゆると別の線路に向かう何かを作っていけばいい。大成はどこか勘働きだけは良いから、そこだけ注意すればいい。
その何も残らない関係に、早く日常に埋もれてしまえばいい。
楽園行で文章って、むつかしいよ……!(「あ!」の人の生産力に感服しながら)
とにかく、仲良し(微いかがわし)6人組のままであれという願いがありますて。
気の迷いっていうと云い方が悪いけれど、でもこう、それはそれ!これはこれ!的にまた付き合える仲というかなんというか。いや、節操がないとかいう訳じゃなくて<二志はそこらへん連中より一段階薄そうだけど、それでも別は別だと思う。ストイックとかってのとはまた違うんだろうけど。
二志ルート後の大成って、どう考えても二志の所為だもの(笑) このエロ大魔人め!
つーかポォエミィイ(アフロ調)な出来上がりで自分どうしようかと思いました。え、えええー。