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0001-01 (0001)

 揺れる地面の上での生活というのは、生まれて初めての経験だった。だからその揺れの名残が眩暈になっているだけに違いない。…と、そう思おうとしていたんだが。
「耳元でぶんぶん云うなよ。煩い」
 云って肩口を睨み付ける。そこにいた一匹の妖精――疑似目眩の元――は、むっとした表情を隠しもせず、ぎゃんぎゃんと文句を云い始めた。余計に煩くなった雑音に、こいつに対して余計な事は云わないでおこうと決意する。

 船旅を終え、漸く辿り着いた大陸――グローエス五王朝、唯一南海に接して位置する商都・テュパン。
 桟橋に降り立ち、さてまずはどこに向かったものかとあたりを見回したところに丁度現れた妖精一匹。そしてそれを追いかけていた、どうみてもまっとうな人間じゃあなさそうな男が二人。
 荒事が苦手ならば一人旅など志さない。莫迦二人を蹴散らしてから(というか、一人は妖精が魔法か何かで石化させていた。俺が居なくても何とかなったんじゃないか?)妖精を伺うと、喜色満面に(頼みもしないのに)身の上話なんぞ始めやがった。成程流翼種(フェイアリィ)というのは喧しく姦しい事この上ないもんなんだなと聞き流して街を歩いていたのだが、何を思ったかこの妖精、俺に付いてくるとか勝手に云い放った。
 裏には色々事情があるらしいが、とりあえず表面上は、この国に慣れていない俺に世話を焼いてくれるのだそうだ。全く有難くて涙が出る。その押し付けがましさに。
「…旅は道連れ世は情け、情けは人の為ならず、か」
 そうそう!と、判ってるのか居ないのか相槌を打つ妖精。いや、リトゥエ。
 実際の所、確かに俺は五王朝は初めてで、そして生まれがこの地の流翼種―――人よりは長命だろうから、見た目以上に年と経験は積んでる筈で、となれば確かにガイドには丁度いい筈だった。
 名を問われ「ユキヤだ」と答えたら、云いづらいとかなんとかぶつくさ文句を云われたのだが、俺にしてみれば“リトゥエ”なんて方がずっと云いづらい。この辺、原因は種族なのか、生まれの場所だろうか。
「で、ユキヤはこれからどこに行くの?」
「初級冒険者養成所」
「えぇ~」
「文句があるなら、さっさとどこへなりと飛んでいけ。俺は一向に構わない」
「文句っていうかさ、何、ユキヤってばさっきすぱかーんと男伸しといて、冒険者としてはぺーぺーのぺーな訳?」
 確かに一人は俺が(すぱかーんってのは何だ)伸したが、もう一人はお前が勝手に処理したんじゃなかったか?
「訳。ギルドでクラス登録するついでに回る。それでこの国での動き方なんかも判れば御の字だろ。ここから大して遠くないし、行って損は無さそうだ。で、お前はどっか行くのか」
「さっき云ったでしょ、街でひとりじゃ目立ちすぎるからくっついてくんだって。…まぁ、荷物の中ででも大人しくしてるわ」
 それはつまり、寝て過ごすって事じゃなかろうか。俺に世話を焼いてやると豪語したのは、一体どこのどいつだった?

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