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やりすぎだ。
このターナーという男、この状態で一体ヒヨコに何を覚えさせる気なのか。
洞窟に入ってすぐ、ケモノの鳴き声らしき鋭い音が響いた。
ターナーは振り返り「早速来たぞ」と俺に告げる。二人とも無言で、いつでも武器を扱える姿勢を取った。
果たして、現れたのは薄茶の毛に包まれた鳥だった。サザンランドペンギン。船上でも時折見かけた、魔獣とはとてもじゃないが云いがたい体型と力量を持ったヤツだ。それが二体。つまり定石としては一人一体受け持たなければならないわけで、それを認識した俺は矢を番え、弓弦を引絞り、放った――と、思ったまさにその時。斜め前方に居た男は地を踏みしめ飛び出し、途端ごうと鉄剣一閃。吹っ飛ぶ茶色の物体は、鮮やかな赤を撒散らす。そして物体は勢いそのままにべしゃりと壁面に叩きつけられ、ぼたっと落ちた。
目端に入ったその光景に唖然としながらも、俺の右手は慣性と習慣のままに矢を放つ。そしてペンギンの胸元に突き刺さった矢は、そいつがこてんと倒れた拍子にぱきりと折れた。向こうの豪快さに比べて、何と静かな事か。
男は剣を軽く拭いながら、この程度でやられるようじゃなと俺に云った。そう思うのならアンタは手を出さなくても良いのじゃないかと、遠くの茶色(もう大分赤く染まってはいたが)を呆然と眺め思う。ケモノの死に方がグロいとかエグいとか可哀相だとかでは勿論なく、単純にこの男の力量というか手段というかに毒気を抜かれたのだ。
「それじゃあここでお別れだ」
ターナーはこの後、洞窟の奥へ潜り上納品を稼ぎに行くのだそうだ。ヒヨコの俺はここまで。まぁ、これ以上あの男に俺の戦意を喪失させられても仕方ないので、それじゃあお先にと会釈をして、洋館へ戻る事にした。
洞窟を抜けると、既に陽が落ちている。確か養成所には簡易寝台(これも無料)が設けてあった筈だ。入る時に手続きを必要とされなかったということは多分任意なんだろう。ついでに風呂についても訊ねよう。