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何故か今、俺は養成所の客間で茶を飲んでいる。
確か俺は、養成所に身を守る術を学びにやってきて、その第一番目の講座である「武装の仕方」を受ける手続きをした筈だった。それが何故、客間でカップとソーサーを手にのほほんと寛いでいるのだろう。
受付の女性は俺をここに通した後、暫く待つ様に告げ、去っていった。それから多分、ゆうに一時間近くは経っている。
…来るんじゃなかったか。
今更と云われれば今更の話を聞かされるんだろう。それでもいちいち赴いたのは、五王朝に足を踏み入れるのが初めてだというのが勿論一番で、次いで、王朝内で起きた《虹色の夜》について俺が持っている情報が明らかに少ないことがその理由だった。“初級”で“養成所”だ。誰もが知っている内容だけでなく、ある程度細かい情報も取得出来るのじゃないかと、そんな期待があったのだが。
軽い後悔を浮かべながら、大人しく探索斡旋所にでも向かおうか――そう思った時、漸く、(待ち侘びた)ドアノブのかちゃりという音が響いた。
気持ちばかり居住いを正し、今後を待つ。
「講習とはいえ、基本は実践だ」
前を歩くターナーという男は、養成所に雇われているらしい。
養成所は熟練冒険者を講師として雇う。熟練冒険者は一定の賃金を貰う代わりに、「講座」関係で探索した際に得たアイテム等を残らず上納する。そしてその熟練冒険者の行動にヒヨコたる俺の様なヤツがくっついていき、アドバイスまたは実践の中から学び取っていく。これがつまり、俺達が無料である仕組みなのだそうだ。確かに、ヒヨコからなけなしの毛を毟るよりは、発見物アイテムの上納の方が儲けが出るだろう。
今回向かうのは海岸にある洞窟。その道中で、ターナーは一応「武装の仕方」を手短に説明してくれた。つまるところ、「自身が扱えるものとそうでないものの見極め」と「買ったらきちんと身につけろ」の二点だ。…まぁ、さすがに解り切っている話であったが、ふんふんと肯いておいた。何せ俺はヒヨコなのだからして。
そこは薄暗く、どんよりとして、底冷えのする空気が漂ってきていた。まったく「洞窟」以外の何者でもない。
今の内からしっかり武器を手に持っておけと云う言葉に従う。そして、ターナーと俺は洞窟の中へと潜っていった。