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2004年04月29日

0002-01 (0004)

 やりすぎ(オーバー・キル)だ。
 このターナーという男、この状態で一体ヒヨコに何を覚えさせる気なのか。

 洞窟に入ってすぐ、ケモノの鳴き声らしき鋭い音が響いた。
 ターナーは振り返り「早速来たぞ」と俺に告げる。二人とも無言で、いつでも武器を扱える姿勢を取った。
 果たして、現れたのは薄茶の毛に包まれた鳥だった。サザンランドペンギン。船上でも時折見かけた、魔獣とはとてもじゃないが云いがたい体型と力量を持ったヤツだ。それが二体。つまり定石としては一人一体受け持たなければならないわけで、それを認識した俺は矢を番え、弓弦を引絞り、放った――と、思ったまさにその時。斜め前方に居た男は地を踏みしめ飛び出し、途端ごうと鉄剣一閃。吹っ飛ぶ茶色の物体は、鮮やかな赤を撒散らす。そして物体は勢いそのままにべしゃりと壁面に叩きつけられ、ぼたっと落ちた。
 目端に入ったその光景に唖然としながらも、俺の右手は慣性と習慣のままに矢を放つ。そしてペンギンの胸元に突き刺さった矢は、そいつがこてんと倒れた拍子にぱきりと折れた。向こうの豪快さに比べて、何と静かな事か。
 男は剣を軽く拭いながら、この程度でやられるようじゃなと俺に云った。そう思うのならアンタは手を出さなくても良いのじゃないかと、遠くの茶色(もう大分赤く染まってはいたが)を呆然と眺め思う。ケモノの死に方がグロいとかエグいとか可哀相だとかでは勿論なく、単純にこの男の力量というか手段というかに毒気を抜かれたのだ。
「それじゃあここでお別れだ」
 ターナーはこの後、洞窟の奥へ潜り上納品を稼ぎに行くのだそうだ。ヒヨコの俺はここまで。まぁ、これ以上あの男に俺の戦意を喪失させられても仕方ないので、それじゃあお先にと会釈をして、洋館へ戻る事にした。

 洞窟を抜けると、既に陽が落ちている。確か養成所には簡易寝台(これも無料)が設けてあった筈だ。入る時に手続きを必要とされなかったということは多分任意なんだろう。ついでに風呂についても訊ねよう。

0002-02 (0005)

 一寝入りして起きたら昼を回っていた。この洋館に戻った段階で日付を回っていたとはいえ、見事なまでの寝過ぎだ。そういえば船を下りて最初の夜だった事に気付く。自身は高揚していて(多分。そうでないと説明が付かない)気付かなかったが、しっかりと疲労が溜まっていたという事だろうか。そんな事を考えながら気持ち慌てて受付に行き、二つ目の講座を申し込んだ。
 昨日は気付かなかったが、この建物には外からの規模に相応しいだけの客間や寝室が備え付けられている。客間に限っても、俺が昨日通された他に少なくともあと10は軽く有るだろう。つまりそれだけ需要が有るという事で、俺が昨日ここで自分以外の受講者に会わなかったのは入れ替わり立ち替わりが激しいからで、つまり空いている講師=熟練冒険者が少ないのだろう。
 だからきっと、今現在でそろそろ2時間茶を飲み続けているという事態は、なんらおかしい事は無いのかもしれないのかもしれないが。

 講師たる人間がやってきたのはそれから更に十数分後だった。講師を連れてきた受付の女性は息を切らせていた。そういえば昨日もそんな感じだった様な気がする。やはり空いている講師が少ないという結論で正しいのかもしれない。だからって、2時間待たされた気分が落着くかと云えば、そうでもないわけだが。
 今、俺は講師――ハナさん(身近で「ハナ」と呼ぶ相手がいた所為で、どうにも名前に慣れない)とふたり、海辺へと向かっている。最近現れたという小島に生えた椰子の実を採るのだそうだ。
 今回、道中は講義ではなく、終始世間話に費やされた。講義らしきものは、あの客間で茶を飲みながら一通り行われている。自身が戦闘で身につけた特技スキルを、その後どう活用していくかという内容だ。それはつまり、自分がしっかり今後のヴィジョンを持ちながら行動しなければ、意に添ったスキルを身につける事は出来ないという事だ。道中、キミは確かにスカウト系向きだねと云われた。道すがらの会話から、彼女は俺の向き不向きを看破でもしたのだろうか。だとしたら俺は相当「読みやすい」人間という事になるが…少し自分の行動を改めた方が良いかもしれない。

 そこは「小島」というより、「引き潮で現れた砂地」という程度の場所だった。これを島と呼ぶのはさすがに憚られる気がする。
 沖合のその島まで向かう途中(なんと徒歩だ。水量が膝上程度だったからまだ良かったが)、ふとハナさんが「蚊がいるから気を付けてね」と漏らした。蚊ぐらいどうとでもと思ったところで「ぶーん」という独特の羽音。
「ホラ来た」
 声に振り向いた俺、唖然。明らかに想像していたものの十数倍の大きさだった。
 弓を構える前に「ちょっと避けてね」との声。慌てて腰を落とすと、頭上を空気の固まり(竜巻に近い)の様な物が奔ったのが解った。それは前方の海蚊シーモスキート目指して一直線に進み、粉砕した。
「例えば」
 剣を収めながら、ハナさんの講義が再開された。スキルと武器はほぼ1対1の関係にある。例えば小回りの利かない両刃剣で懐に潜り込んで急所を突く様な真似には適さない、というような。
「今のアレだって、こういう形の剣だから出来たまでだしね」
 せっかく身につけたスキルを生かすも殺すも自分次第なのだと諭された。それと、臨機応変という意味の重要性を。
「ほら、向こうからまたお客さんが白波立ててやってきたわよ。…その弓でいいの?」
 さすがに、突撃してくる鮫に向かって弓を構える気は起きない。腰にくくり付けていた小刀を手に、白波に向き直った。

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