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0003-02

 寝室には、何故か知らない男が居た。
「あ~、ひょっとして、同室のヒト?」
 昨日はツインのこの部屋を一人で使うなんて優雅な状態だった。しかし入れ替わり立ち替わり以下略の状態では、この状況の方が相応しくはある。
 先客(部屋を使用したという時間的には俺の方が先客ではあるのだろうが)は、片方のベッドにごろりと寝っ転がり、持参しているらしい本をベッドの上にあちこちちらばせながら、読書を堪能していた様だ。
「ああ。宜しく」
 答えて、自分の荷物を漁り始めた。替えの服とタオルを探す為だ。早いところ埃を落としたい。浜で大分砂が入った。
「宜しく~。ぼくはメイジのチャク。きみは?」
 目的の物を手に取ってから、振り向いて答えた。
「ユキヤ。スカウトだ」
「へぇ、あんまり聞かない響きの名前だね。よそから旅してきた人?」
「船で。着いたのは昨日…いや、日付が変わったな。一昨日の朝だ」
「そっか。じゃあひょっとしたら同じだったのかな。ぼくも船なんだよね~、や~長かったよ~。ぼくもえ~と、一昨日。一昨日だね。それで着いたんだけどね、一日テュパンを観光して来ちゃった。さっき講座の最初のやつ受けたばっかり。んも長いよね。ぼく午前午後で一個ずつくらいとか思ってたのに、当て外れちゃったよ」
 この調子じゃ何日かかるのかなぁと、チャクは指折り数え始めた。随分のほほんとした中身のヤツだ。顔立ちがそうのんびりにこやかという風合いでもない事に、少しギャップを感じる。
「ユキヤくんは、こっちに直接来たの? んじゃあ2個目が終わってたりする?」
「ああ、今し方」
「そっか~。んじゃあ終わるのそんなに変わらないよね。一日違いになるのかな。講座の後って、どっか行くとか決まってたりする?」
 別に、と答えると、チャクは「それじゃあ」と切り出した。
「ぼくとパーティ組んでみない? ぼくも取り敢えずどこに行こうとか決めてないから、暫くはテュパンをうろうろするんだと思うけど。どうかな。スカウトとメイジだったら、んまぁそんなにおかしくもないと思うんだけど~」
「…また、随分急だな」
 別に一人旅に拘りがある訳じゃあないから、その辺は構わないのだが。しかし出会って5分程度の人間に突然持ちかける様な話ではないだろう。
「んでも、街の酒場で募集かけるより、今だったらホラ、お試し期間ていうのかな? こう、行動を共にするにあたっての向き不向きみたいなものが実践の前に解って良さそうだな~って思うんだよね。だからえ~と、ユキヤくんが講座終わるのがあと3日後? くらい? それまでに決めてくれればいいよ。そんでぼくが同行に向かないなーと思ったら断ってくれればいいし。ぼくも“あ~キミとは居らんないな~”なんて思ったら前言撤回するし。その位の軽い気持ち」
 先の先を考えているのかいないのかいまいち掴めないのだが、確かにこの男はメイジ向きなんだろうなとは思う。この理論先行ぶりはなかなかだ。
「解った。軽い気持ちでな」
「そうそう。軽い気持ち。その荷物、お風呂? 行ってらっしゃ~い。ぼくはお休み~」
 見送りの言葉を背に、路上で漫才くらいは出来そうだなと妙な想像をしながら(実際に行動するつもりはさすがに無いが)部屋を出た。

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