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0003-04 (0007)

 昨夜あの会話を交わした次の日がこの講座だとはなと思いつつ、今日も今日とて客間で茶を飲んでいる。そろそろ全種類制覇しそうな勢いだが、つまりこの洋館の各客間に茶葉の種類が豊富な訳は、そして更にその豊富な茶葉にやたらハーブティーが多い訳は、出来る限り精神を落ち着けて貰おうという養成所の願望が滲み出ているのだろう。因みに今日は3時間待った。段々自分の忍耐力に感心する。
 …もしかすると、それを鍛える意図があるのか? …まさかな。ひとまず、明日は4時間なんて事が無いように祈ろう。そうでないと、ここに戻ってくる時間がいつになるやら検討がつかなくなる。いや勿論、精神衛生上の問題も多分に有るが。

 今回も、受付の女性は息を切らせていた。駆けずり回って貰うのは確かに申し訳ないが、こちらとて十分過ぎる程に時間をロスしているので、特にそれを気に病む事は無いだろうと勝手に決めつける。
 今日の講師はベルグと云った。ウィザードだ。客間に現れるやいなや何とも不遜な表情で俺を眺めやった後、時間が無いから急ぐぞと告げ、さっさと歩き出してしまった。受付の女性に軽く頭を下げた後、俺もその後を追う。

 パーティを組みたいのならば、と、足早に歩を進める中(どうやら海辺へと向かっているらしい事は判った)、簡単な講義が始まった。大抵、各街には冒険者専用の様な酒場が有り、パーティメンバーの募集はそこでかけられているそうだ。やりとりは主に、掲示板に貼られたメモ。その中から条件に合った物を探し、そのメモを交渉の意志として指定の場所で話し合いミーティング、そこで合意が取れればめでたく結成…という訳だとか。《虹色の夜》以降、所謂“冒険者”向けの設備やらの充実度が飛躍的に上がったのと同時に、こういったある種のシステムの確立もまた加速度的だったのだそうだ。つい最近この大陸に来たばかりの俺にとっては、そんな苦労話(とはまた違うが)を聞かされたところで「はぁ」としか云い様がないのだが。
「気のない返事だな。さて次はパーティを組む際の注意点だが……その前に来客だ」
 前方からやってくるのは、固い殻を持っているであろう青いザリガニ。向かってくるのに合わせて、俺は小刀を構えた。やられたら時やり返せればという位に、防御に目一杯気持ちを持って。

 果たして、俺の行動は正しかった。何故ならばベルグが放った激しい炎ヴォルカニックフレアによって、ザリガニ達は鮮やかな赤にその殻の色を変えていたのだから(多少火加減の問題で焦げ付いては居たがそれはそれは食欲をそそる色だった)。しかし重ねて云うが、この講師達が俺達ヒヨコに向けた意図というものが全く読めない。普通こういう時は、余程こちらがピンチにならない限りは、出来るだけ力量を弱い方に合わせた状態で闘う物じゃないか?
「何だ、何か云いたげな顔だな。……まぁ良い。今のブルーロブスターは……」
 刃物の立ちづらい、固い物質を持った輩を相手にする時は魔法が有効だ。だからと云って、魔法使いばかりをメンバーに集めてしまっては脆さが全面に出てしまう。つまりパーティというものは、個々の能力を旨く集め、バランスを取ることが寛容なのだ。
 ――云っている内容の重要性はとても解るのだが、果たして、俺がその「相手の硬さを認識する」前に、すぱかーんと(リトゥエ談)この男が焼き払ってしまう理由になるのだろうか。
「さて」
 暫く歩いた後に、ベルグはぴたりとその足を止めた。
「――何か、待ってるんですか」
「ああ。多分そろそろ来るはずだ。さっきアレを片付けたからな。――そら」
 遠目に、自然に生まれた波とは違うものを見つけた。アレはどうみても、海中から何かがやってくる前触れだ。

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