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2004年05月04日

0007-01 (0014)

 オークションというものをやってみた。
 冒険者組合(単純に云うと、ギルドを統括する様な組織だ)の主催しているもので、不要品の整頓であったり、戦利品を手っ取り早く金に換える手段としてであったり、様々な種類の物品が出品されている。
 冒険者登録証さえ提示すれば、どんな商品にも入札が可能だ。誰がどの商品に幾らで入札しているのかは逐次更新され、目当ての品を得る為に何度でも入札が可能となっている。入札は商品1つ毎にカツンと小槌を叩くようなものではなく、長時間かけて行う入札方式だった。入札対象商品達には、入れ替わり立ち替わり値が付けられて行く。確かに、常にその場に居なければならない様なリアルタイムの入札方式では、いつ何時何があるか解ったものじゃない冒険者相手には有用ではないだろう。
 テュパンの場合、入札棟はホーヴローヴェ大通り(南海沿いに走る、主要道路のひとつ)と市場通りの交差する地点に、海を向いて立っている。市場通りは昨日見て回ったところだが、ホーヴローヴェ通りには、終端に冒険者ギルド(正式には斡旋公社と呼ばれている)がある為、中間点たるこのポイントには、常に大勢の人間がひしめき合っている。今や遅しと、品物を競り落とす瞬間を待ちかまえている者が大半だろう。
 入るとまず目に付くのは、直近落札者一覧。基本的に、自身が逗留している場所は各冒険者ギルド或いは組合に連絡を入れるという暗黙の了解がある為(それは主に生死の判断に用いられるのだが)、品物はそのルートから落札者に届けられる事が多い。それでもやはり、自分で待ち構えて受け取りたい、とやってくる人間が多いのだろう。入り口でそれを見てから、受け渡しカウンターへ向かう者は少なくなかった。
 入札の場合は、競りたい商品によって受付が異なる。例えば一般的な武器防具であったり、珍しい装飾品、或いは愛玩動物ペットとしての魔獣や回復薬などの消耗品まで、そのジャンルの多さには全く恐れ入る。
 まず、自分の欲しい種別のカウンターに行き、そこで一覧を受け取る。出品者の名と同時に、通番、アイテム等の名称、使用・未使用の有無などの情報がずらりと並んだそれ(全く日に何度新しくなるのだろうと思ったが、終了したものに対しては一覧上に取消線を引き、ある程度は再利用している様だった)を元に、受付にて希望の品を伝える。すると現在の入札額が判るので、それを元に上回る金額を申告する。ちなみに一口幾らであるとかいう事は全くなく、通貨の最小単位たる1リーミルから、増分も1リーミル単位で可能である。
 なかなかまどろっこしい手続きではあると思うが、しかし扱う商品の量が量である以上致し方ないと思う。何せ武器防具などは各種常時1000を越える様な出品ペースであるのだから。

 目当ての品に対して取り敢えず入札をしてから、その入札終了時間を覚えつつ入札棟を出る。今度は闘技場に向かってみた。
 闘技場という名からは勝敗賭博(トトカルチョ)が想像されるであろうが、ここでいう闘技場とは(これもまた)組合が発足した、つまり組み手大会の様なものだった。
 自身の力量(この場合クラスの上位下位はまったく関係ない)、そしてパーティの人数に合わせて決められたランクに対して、勝ち抜き戦を行うというもの。俺も2度程参戦して、4・5位辺りに一度は食い込んだ。その後どうなったかは知らない。狙っていた商品の入札時間が近づいていたからだ。商店を軽く覗きながら、入札棟へと向かった。
 結果、手裏剣を手に入れた。手裏剣と言うよりは苦無に近い形状のものだ。飛び道具としても、接近戦での武器としても使える。少なくとも今持っているダガーよりは、格段に使い勝手が良さそうだ。丁度いいと、街を出てすぐ辺りに出てくる亜獣ディオーズ相手に、模擬戦の様な事をしてみた。いやまぁ、向こうにしてみれば模擬もなんでもなく、俺はただの食料だろうが。
 一息着いた頃には昼を回っていたので、出店で適当に昼飯を購入してから宿に戻った。そろそろチャクが到着していてもおかしくない。

0007-02

「あ、うん、ぼくも中位クラス登録したよ。んとね、コンジャラー。なんていうのかな、精霊召喚? まぁ召喚ていうより、まだ力をちょっと借りるっていう程度だけど。召喚するのは上位クラスにサマナーっていうのがあってね、ぼくは次それになるつもり」
 相変わらず、よく喋る。まあ、2日やそこらでやたら鬱ぐようになられても、今後暫く同行者になる以上、俺が困るが。
 今俺達は冒険者組合に向かっている。パーティ登録をする為だ。
 自身の居場所が生死判断に繋がるような現状、パーティ登録もそれと同じ様な理由で推奨されている。ほか、力をカサに着て一般の皆様方に迷惑を掛ける様な輩がいないとも限らないので、その牽制の意味もある様だ。事が起きた場合に、身分の割り出しが容易になるとか。
「あっ、そうだそうだ、ねぇ、あの最終試験ってちょっと詐欺っぽいよね」
 唐突にチャクが切り出した。
「だってぼく、気絶したのに合格しちゃったよ。なんか頼んだヒト?が気絶してなければいいみたいだね」
「…話からするとそうだな。俺の場合は逆だったが」
「ん? 気絶しなかったんだ?」
「いや…最後の最後、デカいのを喰らった。炎の魔法狙いで魔術師を連れて行ったら、そいつは初撃で潰れた。だからまぁ、落ちてるんだが……なぁ」
「ん?」
 合格したのなら悪いが、しかしこのままではなんというか、気分的に納まりが付かない。
「暫く公社で仕事だなんだした後、もう一度試験を受けに行っても良いか。合格…はまぁ、もうどうでもいい様な気がするが、どうせなら気絶せずに残りたい」
 多少ごねられるか、そう思っていたのだが、あっさりとチャクは首肯した。
「別にいいよ? じゃあそうしようね。とりあえず上位クラスになれるくらいまで簡単なディオーズ狩りでもしようか。ぼくも早くサマナーになって、ちゃんとしたの召喚してみたいしね~」
 召喚。どうも俺にはそういう方面はピンと来ない。
「召喚って、何が喚べるんだ? さっき云ってた精霊とかか」
「それもあるけどねぇ、上位の上位になると、必殺技でね、凄いのが喚べるんだよ」
 そうして、さらりとチャクは口にした。
「んね、上級悪魔って、見てみたくない?」

 今後パーティを組むにあたって、さすがに一抹の不安を覚えた。

0007-03 (0015)

 公社は元々、冒険者組合がまだ『組合』としての確固たる基盤を形作る前、つまり冒険者同士がただよりあって集まっていた頃に相互扶助を目的として作られた『冒険者ギルド』だったそうだ。その頃は“まあ何とかやれている”という程度のものであった様だが、あの《虹色の夜》が起きた。
 以後発生した様々な異変に対して柔軟に(というか勝手に)対応していく冒険者達に目を付けたのは、自警を前提とした金持ちではなく、そこをすっとばしてグローエス五王朝――つまり政府だった。多額の出資を行い各種手続きの制度化を実施、そして現在に至る、とのことだ。
「結構立派な建物だよね」
 赤煉瓦を見上げてチャクが云う。二階建ての重厚な建物は壁一面の赤煉瓦だ。海風によって風化し随分と歴史を感じさせる風合を醸し出していが、公社の成り立ちを考えるに、どちらかといえば新進の企業に当たるんだろう。
 掲示板は、一面“これが全て依頼なのか”という位に要件やら報酬が書かれた紙に埋め尽くされ、元の地の色(多分緑)が全く判別の着かない様相だった。依頼があるところに冒険者が居り、冒険者居るところ依頼有り――確かにテュパンは、交易が盛んな事から人の流れも激しい為、冒険者も情報を求めて良く現れるんだろうが――さすがに、ありすぎじゃないか。
「そこそこのディオーズ狩りディオーズ狩り……ん、あった。あったよ~。コレどう?」
 チャクの持ってきた紙には、<小鬼狩り>と大きく書かれていた。依頼元はテュパンの騎士団。近くの谷で、鬼種に対する討伐隊が逐次派遣されているのだとか。恐らく頭数合わせ程度のものだろう。
「いいんじゃないか。じゃあ申し込んでくる」
「よろしく~」

 帰り道、食堂に寄って晩飯を取った。しかし、テュパンの魚料理は全くどうして旨い。今まで刺身以外の魚料理(特に白身物)はあまり好んで食べてなかったが、これは宗旨替えするべきか。

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