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Tag: 海岸線清掃

0011-02 (0023)

「海は広いぞでっかいぞ~行ってみたいぜ余所の国~」
「お前が十分余所者だろうが」
「ユキヤくんもね」
 テュパンの南側は、全て沿岸部に面している。その長い海岸線の1つ、“マルケラ海岸”と名付けられた辺りが、この依頼の目的地だった。
 潮流の関係で、このマルケラ海岸には様々な漂流物が流れ着くのだそうだ。勿論大半は役に立たないゴミだが、時折、珍品の類も見られるという。
「んで、なんだっけ。蚊を退治して証拠見せればいいんだよね?」
 チャクの言葉に、依頼書を取出し詳細情報を再確認する。
「正確には“巨大蚊”だな。どの位デカいのか、サイズまでは書いてないが」
「……んん?」
 前を行くチャクが止まったので、俺も自然、足を止めた。
「どうし…」
 云いかけて気付いた。右斜め前方、海岸線の奥。沖の方から、なにやら靄の様な塊が、こちらへとやってくる。
 いや、靄じゃない。それは多分、小さな物体の寄せ集まりだ。靄だと認識したのは、その集団を透かして向こうが見えるからで、かつ、奥の風景が何故かぼやけて見えたからだった。
「ぅゎっ、ちょっ、ぼく、依頼やめたくなってきた」
 選んだのはお前だ。しかし、口にしたのは別の言葉。
「そう思って気分がくじける前に、一息に焼き払ってくれ」
 ぽんと肩を叩いてから、俺はチャクから数歩下がった。
 慌てて印を作り出すチャクの向こうには、ぶーんと羽音響かせやってくる、海蚊の群れ。

「ああ~、さっきの見た? 微妙に焼け残ったのがぼたぼたぼたって。う~、んも今日夢に出そう」
 なんで全部灰になってくれないかなぁと、チャクはぶつぶつと零す。
 火の精霊(サラマンダー)の助力により、蚊の集団は屠られた。やはりこういう時に魔法は便利だと思う。あんなのをいちいち潰していくのは、それは面倒そうだ。
 対象の巨大蚊はまだ現れない。先鋒(?)としてやってきた通常サイズを焼き払った場所から十数メートル離れ(チャクのたっての希望だ)、俺達は砂浜に腰を下ろしていた。
「お前悪魔が見たいとかなんとか云う割に、ああいうのはダメなのか」
「だってあれムシだよ。ムシ。ぞわぞわするんだよ? おっきいのは別にこう細部がズームされる位だからむしろ見て面白そうだしいいけどさ、ちいさいのが集団なんてこう、ああ~、ぼくもう考えない」
 …人の好みは千差万別というが、それは単純なサイズ比較という条件にも当てはまるのだろうか。
「ユキヤくんああいうの全然平気なわけ? んも信じられないね。真っ当な人間?」
 なんて言い草だ。さすがに俺もカチンと来る。
「じゃあ訊くが、現れる個体数が同じとして、小さいゴキブリと大きいゴキブリとなら」
「うーわー聞かない聞かない聞かない。んも何その最悪の選択肢」
 チャクは両手で耳をぎゅっと塞いでから、大層恨めしげな目で俺を睨む。
「デカけりゃ見て面白いとか云ったのお前だろうが。たかがサイズの問題で嫌悪感に天地程の差が出るわけがないって辺りの確認をだな」
「じゃあユキヤくんはどっちがいいのさ」
「両方とも嫌に決まってるだろう。真っ当な人間だからな」
「んじゃアレとさっきの小さいの比較してみなよ!」
「…アレ?」
 びしりとチャクが指差した先には沖。そしてそこには、海上を浮遊する、遠近法を無視した様な、数体の。
「…………まぁ、嫌悪感よりは、驚きと呆れの方がデカいな」
「ほら見なよ!」
 喜んでる場合か。
 今回のターゲットである“巨大蚊”は、(その名に恥じぬ様な)直径数メートルと思われる巨体を、浮揚(ホバリング)から水平移動に変えた。

「2回も刺された!!」
 数体の集団からやって来た1体(多分斥候の役目だったんだろう)を伸している間に、他の巨大蚊には逃げられた様だった。依頼の元々の理由が「下手に繁殖されると面倒(この巨大蚊(ハイモスキート)も《虹色の夜》以降の産物だ)」というものであるから、殲滅出来れば良かったのかも知れない。しかし、依頼の達成条件としてそれが含まれていない以上、報酬等はしっかり払われるだろう。
「痒みが出てるなら海水にでも浸けたらどうだ?」
 因みに先程の叫びは勿論チャクの物だ。あいつは相変わらず向かってくる奴等の良い的になっている。
「今んとこ痒くはないけど、でも針がぶっといから絶対変な痕になるよこれ。ああもう、だからムシってヤなんだ」
 だからここに来るのを選んだのはお前で、さっきはデカいと楽しいとかなんとか云ってなかったか?
 勿論それは口には出さず、代わりに「その針、退治の証拠で持っていくから蚊から抜いてくれ」という台詞を口に乗せた。

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