療養中につき。
十一が撃たれてから一週間。
怪我人の起きてる時間が寝てる時間よか長くなって、モーテルの部屋割りは５：１から４：２になった。
昼間なら更に太郎とかも集まって、騒ぐと二志に追い出されるから一生懸命大人しくしてるのが面白い。
俺はちょうど見てたテレビが終わって、ソファに怠惰に寝そべったまま顔を上げた。
十一はさっき眼を覚ましてからパイポを咥えてぼーっとしている。
ぼーっとはしてるけど、目がご機嫌斜めだ。禁煙令のせいか？
「買い物当番は」
「あ、俺ー！」
「サラダ。おにぎり。具任す梅干し不可」
「タラコスパー」
「うどんとー、煙草」
立ち上がった太郎に次々と注文が飛ぶ。全然覚えていそうもないから三人分のメモ書いて渡した。煙草は抜いておく。
「行ってきまー」
「隣で玄と一伊にも聞いてけよ」
太郎の背中を見送って、二志が立ち上がる。煩いのが消えたところでガーゼ交換タイムらしく、救急箱の中身をチェックし出した。俺も部屋を出ようかと一瞬思ったが、立ち上がるのが面倒でやめた。
「……せんせぇ？」
意識がはっきりしてきたのか、十一の猫撫で声が聞こえる。
「おねがいがあるんですけどぉ」
「……」
二志のキツい視線が想像できる。二志におねだりなんて、そんな望みの薄いこと。と思いながら俺は顔だけで振り向いた。
「シャワー浴びてい？」
「却下」
にべもない。
「そこを何とか」
「死ね」
食い下がる十一の口の端がちょっと引きつっている。
「……ほら、熱も下がったし？」
「今朝になってようやくな」
明らかに二志の不機嫌モードが作動中だ。俺は腰を上げてフォローに回ってみた。
「どうしたの十ちゃん、先生の言うことちゃんと聞かなきゃ駄目じゃないの」
「……だって嫌なんだもん。綺麗にしたいんだもん」
「それでぶっ倒れてたら世話ねぇだろ」
ゴネる十一を二志はどこまでも冷ややかに切り捨てる。
「この俺が手ずから清拭してやってんのに何が不満だ」
声音が静かなだけに余計怖い。
確かに一週間もタオルで拭いてるだけじゃあ痒くもなるだろう。だからって、ベッドとトイレの往復でさえ誰かの肩を借りてんのに、一人でシャワーは恐らく無理。てゆーか無理。逆立ちしても無理。
「諦めろ十一。俺が孫の手を手作りしてやるから」
「……きいぃぃぃ！もーいや！臭いのよ！頭が臭いのよおぉぉ！」
そっと肩に手を置いてみるが、十一は髪をかきむしって暴れだした。ヤケクソらしい。
「お、落ち着け？」
「やってらんないわぁ――！っで、ぉが……！」
傷に障るぞ、と宥める前に自滅した。腹を押えて固まっている。
「……馬鹿かお前は」
顔をしかめて細く呼吸を繰り返す十一に二志は何やらため息のようなものを漏らした。
「まともに歩けるようになったら防水テープで留めてやる。今日は言うこと聞け」
「…………」
沈黙が恨めしげだ。
「ハニィ、俺はお前がフケまみれでも愛してるぜ」
「……イヤ、口だけの慰めなんて」
そろそろと身を起こしながら十一が首を振った。どうしても引きたくない気分らしい。やっぱ禁煙令のせいか。
「別にいーじゃん一週間風呂に入んねぇくらい」
「あたいはあんたと違って綺麗好きに出来てんのよぅ」
「しずかちゃんかよ」
「のびたさんのバカ。イケズ」
「……ドラえもーーん？」
助けを求めると二志は露骨に嫌な顔をした。
「てめぇらいっぺん死ね」
納得してない顔の十一を綺麗に無視して、やけに手荒に傷の処置を済ませると、二志は汚れたガーゼをゴミ箱に放り込む。
「……」
「先生……いつにもまして痛かったんですけど――？」
がっくりと項垂れて脂汗のようなものを浮かべながら十一が掠れた声を上げた。
「ぁあ？消毒が足りない？」
「何も言ってませんごめんなさい」
十一は魂が出ちゃいそうな長い唸り声を吐いてゆっくりとベッドに身を沈め、目を閉じた。不貞寝だ。
俺は、あとでニコレットを買ってきてあげようと心に決めた。
モーテル足止め二週間の折り返し地点です。
スネ毛生えてそうな彼らのことだから、頭痒くなったりヒゲが伸びてきちゃって変な顔になったりとかすると思うます。
ああいう髭って手入れ必要なんですよね？ヒゲ人口が身の回りにいないのでよくわかんないんですが。
