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仲良し

「あ!」の人作成。オールキャラ。旅路の途中で旅館にお泊り中。

 太郎と玄は相性が良い。
 気が付けばいつの間にか集まって、なんとはなしに一緒にいる、いつもの六人は仲の良し悪しで分けるなら、もちろん仲良しさんに分類されるわけだが。
 人数がいればそれなりに、濃度の差というか、距離感に違いが出る。
 たとえば玄は。一人で遊び始めるとそれとなく付き合ってそばに居るのは大抵が一伊で、十一や二志と二人っきりで楽しそうにしている様子を見かけることはあまりない。
 たとえば太郎は。一伊ではその勢いつけ過ぎて脈絡の弱い言動に対応しきれず、一方で正反対とさえ思える二志とは不思議なほど馬が合っていたりする。
 で。
 太郎と玄は相性が良い。

「これで、どうだーー!」
「……」
 玄に遊んでもらう、はほとんど太郎の日課に近かった。元気とテンションの有り余っている太郎に、玄は実に我慢強い。加減をわきまえない全力で技をかけられても、馬鹿力で強引に返しにかかったりして、きっとそれなりに面白いんだろう。
 図体のでかい二人が戯れていると、微笑ましいと言えなくもない。とても非常に限りなく迷惑でもあるけれど。
 自分がプロレスの相手をさせられるよりは余程ましなので、他のメンバーは素知らぬ顔で談笑しながらお茶を啜ったりする。
「ところで……」
 ちょうどそれぞれの湯飲みが空になって、話題も一段落したところで、十一がまるで今思いついたかのように嘘臭い心配顔を作った。
「――隣近所のお客様にご迷惑じゃないかしら」
「隣は空き室。上下は知らんが」
「やめさせる?」
「誰がすか」
「浪人?」
「行っとけ?」
「当たって砕けろ?」
「な、いやっすよ!」
「意気地なし」
「甲斐性なし」
「西洋ナシ」
「ぇえ!?わけわかんないっすよ!」
 狼狽える一伊をそのままに、天井を眺めてみる。なんとなく、揺れているような気もしないでもない。そのまま視線を下ろせば、目の前の茶托はこれはもう明らかに振動していた。
「犬が地震起こしてまーす」
「地震よりカミナリが怖いわ」
「つまみ出される前に黙らせろ浪人」
「だ、からなんで俺……あ、そういえばそろそろお腹空いて大人しくなってくる頃じゃないすか?」
「お、浪人いい読みだね」
「珍しく冴えてるね」
「よしこの勢いで突っ込め」
「……さっきからなんなんすか三人して」

 玄にチキンウィングアームロックを極めようと奮闘していた太郎が突然ばたりと動かなくなったのは、それから二分後だった。
「……」
「……降参?」
「は、ら減ったぁー!」
 玄が無表情に顔を覗き込むと、勢い良く跳ね起きて叫ぶ。
「はい、じゃ飯にしましょ」
 よいせ、と爺むさく立ち上がって十一が言った。
「何食うー?」
「……ラーメン」
「メガマーック」
「えと、たまにはソバとか」
「あ、今急にスシ食いてぇ」
「ちょっとは合わせようとか思え馬鹿ども」
 てんでバラバラの意見が行き交って、一瞬全員が沈黙した。
「あれ、今たろ発言してなくね?」
「え、うそ」
 腹減ったー!のポーズのままで沈黙していた太郎に視線が集まる。
 何か、とてつもなく大事なことを忘れていて、それを必死に思い出そうとしています的な難しい表情で太郎は考え込んでいた。
「ど、どうした。腹痛?」
 声をかけても、唸りながら腕を組んだりしている。
「んー、ぉー?……今日って、なんか、あれ――?」
 頭が床に付きそうなくらい首を捻って、太郎は珍しく真剣な顔つきだった。
「どうしたのかしらこの子」
「拾い食いでもしたのかしら」
「いや、ほら!今日はなんかちょー重要な日じゃね!?なー!」
「知らねぇよ」
 要領を得ない太郎に皆も一緒になって首を傾げた時、黙っていた玄がぼそりと呟いた。
「……今日はお肉の日」
「っ、それ!それだよ!今日肉の日じゃん!ほらー!ほらほらー!」
 もの凄く嬉しそうに太郎が顔を輝かせる。
「肉の日?」
「毎月29日」
「肉が安ぃ日だろ!」
 きっぱりと呟いた玄と頷き合いながら太郎が拳を固めた。
「ってことで、今日はやきにくーーー!」
 玄も無表情でパチパチと手を叩く。
「……やきにく」
 その華麗なんだか馬鹿なんだかわからない意気投合に呆気に取られて開いていた口を、取り敢えず元に戻す。
「焼肉に二票。決まりだな」
「え、多数決だったの今」
「だろ?」
 二志はあっさり言って上着を着だした。たぶん安いという単語に惹かれたんだ。さすが。
「まぁ、いいけど。焼肉」
 俺の声を皮切りに、みんなゾロゾロと移動を開始した。
 一人一伊だけがほんのり薄青い顔をしている。
「焼肉ですか……俺ちょっと胃の調子が」
「諦めろ。キムチでも食っとけ」
「辛いものも良くないぞ」
「え、そーなん?」
「じゃレタスでも食っとけ」
「そんな!」
「にっくにっく」
「……おにっく」
 六人が六人なりの仲の良さを存分に発揮しながら旅館を出て、ちょうど目の届く距離に見つけた焼き肉屋に歩き出す。

 ……おにっくを堪能しながら、だから俺が何を思ったかと言うと。

 太郎と玄て相性良いよな。と。

お肉の日なので、たろに捧げます。
あと前回登場してたにも関わらず出番がほとんどなかった玄に捧げます。
ケルベロス仲間なので二人はテレパシーが使えるんです。

ほんとうなら、誰それは誰それが得意分野じゃない、とかいう微妙な機微はきっと大成には分かんないと思いますが。
ちなみに大成は愛され大成なので全員から好かれていますが、その本人は……えー、浪人のことはちょっと苦手っぽい気がします。

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