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0014-01 (0028)

「だいじょうぶかなぁ、あれで」
「街中程度ならともかく、ここに連れてくるわけにも行かないだろ」
「そうだけどさぁ」
 ルアムザは、大きく『外区』『内区』に分かれる。街の中央に、五王朝の中心たる宮殿“ロベルアムザ”を据え、そこから円を描く様に“横路”が、その円を8等分する様に“外路”が走る。内区はこのうち横路の内より3本目まで、それ以降を外区と呼ぶのだそうだ。内区は主に政治の中枢機関と貴族階級の住まい、外区には一般住居や酒場が並ぶ。そしてその境目に市場と、ルアムザという都市の性質を決定づける様な施設群──魔術学院が建ち並ぶ。とのことだ。俺達が寝泊まりする為の宿は、境からほんの少し外区へ入った所に有った。
 チャクが心配している原因たるあのウサギは現在、エサと水を床に置き、その廻りに囲い(のようなもの)を作って置いてきていた。しかし、豪気な事にペット可の宿だとは思わなかった。躾も済んでいないというのに良いのか? …いや、躾というものが必要なのかどうかすら、今の俺にはよく判らないんだが。
「んん、さっすが学院の多い所だよね。なんかこう、知的な依頼が多い様な気がする」
 護衛・討伐がメインだったテュパンに対し、ここ、ルアムザ斡旋公社──さすが首都だけあって、五王朝主要都市にある斡旋公社の総元締めだ──の依頼には、「自身の研究に役立つ品を持ってきてくれ」という類が圧倒的に多い。だがそれらに並ぶ品は、まるで俺の耳に届いた事のないものばかりだったので、当分その依頼は受けられない様な気がしたが。
「何か、お前に判りそうなのは有るか。こんな依頼群だと、俺は多分役立たずだろうからな」
「ええ~。いいじゃんいいじゃん、ユキヤくんもちゃんと見てよ。なんか良さそうなのあったらぼくに訊いてくれるとかでいいしさ、んね、ね?」
 チャクは“流れ流され”を信条とでもしているのか、どうにも他人に行動を依存する事が多い。つまりこいつが積極的にパーティを組もうとしていたのは、自身の行動にそういう方向性がある事をしっかり認識しているからなのだろう。…職業冒険者として、その傾向は危ういのじゃないかと思うのだが。
「──」
 ともあれ、ざっと依頼群を眺めてみる。××石を捜しています、○○山産の水晶求む!、**の依頼承ります……これはつまり実験台募集か。
「…ん」
 《魔術講師代行願う。魔術の講義と実践。魔術師の方限定でお願いします。》
「チャク、これ」
「あ、なんかあった?」
 どれどれと、俺の指差した紙を眺めるチャク。と、みるみる表情が歪んだ。
「…ぅぇえ。本気?」
「偶にはお前、人の役に立っても良いだろ。せっかくクラス登録がメイジ」
「サマナー! 召喚師!」
「…同じ魔術師ギルドなんだろ? だったらいいじゃないか」
 んんんん~。腕組みなんかして、真剣に悩み始めた。何がそんなに嫌なんだ?
「…そういえば」睨める様に、チャクは俺を見上げた。「ぼくがこれやってる時、ユキヤくんは何するの?」
「え?」
 …確かに、魔術理論の理の字くらいが何とか判る程度じゃ、見事に完全役立たずだ。と、ふととある単語が浮かび上がった。
「……まぁ、付き添い、だな」
「ぼくこれ自分からやりたーいって云った訳じゃないんだけどなぁ~」
 ぶつくさとぼやきつつも、チャクは紙をとって受付へと向かった。これはなかなか、見せ物としては面白くなるかもしれない。

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