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0016-02

「助かりました」
 俺は向かいの女性に頭を下げた。
「いえいえ、困った時はお互い様ですしね」
 女性はふんわりと穏やかに微笑む。
 ガレクシンに着いた頃、遂にチャクの足腰が立たなくなった。どうやってこいつと荷物を両方抱えようと迷っていたところに、この女性が荷運びの方を引き受けてくれたのだ。おかげでこうして、チャクを宿の部屋に叩っ込み(勿論毒消しも飲ませた)、一息吐く事が出来ている。現在、宿の1階部分(昼間は軽食屋だ)で、その礼代わりに飲物を奢っているところだ。
 聞けば、彼女は預言者ギルドにクラス登録を行っているクレリックなのだそうだ。現在サマナーとしてクラス登録をしている仲間が一人いるとの事。
「そういえば、あなたもペットを連れてるんですね」
 因みに現在、ウサギは俺の肩に腹這いになってぶら下がっている。
「わたしの仲間も、ペットを連れているんですよ。その子は猫なんですけど」
「その猫も卵から孵ったんですか」
 思わず言下に続けてしまった。
「…猫が、ですか? いいえ、そういう話は聞いてませんけれど」
 そうだ。普通どう考えたって、哺乳類(と思われる物)が卵から孵ることはまずないのだ。どうもこのウサギが現れてこっち、ついそういった常識を忘れそうになる。
 “猫も”ということは、その子は卵から孵ったんですか? そう聞かれ、かくかくしかじかと事情を説明してみる。あらまあ、私の仲間もその卵、持っているんですよ? というので、じゃあその人も船で──と聞こうとしたところで、声が振ってきた。
「もう、やっと見つけた、マリス」
「あらセンリ。お買い物終わったの?」
 現れたのは、蜜色の髪を短く切り揃え、薄茶のローブを纏った女性だった。足下に猫がいる事からも、多分この女性が彼女(マリスと云ったか)の仲間なのだろう。
 センリと呼ばれた女性は、何故か俺をじろっと睨むと(顔立ちが整っているので、凄みが妙に増した)、あろう事かこう云ってのけた。
「何、ナンパ?」
「は?」
 予想だにしなかった台詞だ。呆気にとられた俺に、センリは言葉を継ぐ。
「悪いけど、人の仲間勝手にナンパなんかしないでくれる? マリスはこの通りのほほんとしてるから騙しやすいとかなんとか考えたのかも知れないけどお生憎様、そう簡単にはいかないんだから」
「いやちょっと待て、何を勘違いしてるんだ?」
「何よすっとぼけて。全くアナタみたいなのってどうしてこうごろごろごろごろ良くも転がってるのかしらね、いい迷惑だわ」
 今現在いい迷惑を被っているのは、どう考えても俺だと思うのだが。
「大体──」
 と、更に続きそうな文句を止めたのは。
「ぅゎっ、猫! ふかふわ!」
 うわーうわーと叫びながらてててててと階段を駆け下りてくるのは、先程部屋に放り込んだはずのチャクだった。あれだけ今にも死にそうなほどの容態だったのに、もう毒素が抜けたとでもいうのだろうか。いやまぁ、アレを見ている限りどう考えてもそうとしか思えないが信じ難い。
 チャクは呆然としたままの俺達の卓へ来ると、そのまましゃがみ込んで、センリの足下に居た猫に向かい、またもうわーうわーとはしゃぐ。
 そして、一言。
「ユキヤくん、猫ナンパしたんだ!?」
 お前こそ俺の事をなんだと思ってるんだ。

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