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そして、61日目。

オールキャラ。「二志撃たれ・大成捕まり・携帯捨て」でのノーマルエンド後日談。

 2ヶ月経った。

 なんだか勢いで走り出したワゴンの旅は、騒いで、はしゃいで、銃撃に見舞われて、文字通り燃えてみたりして、捕まったり、死にそうになりながら、南の島一泊で、ひとまずのゴールを迎えた。
 それから、生活資金だとこっそりカバンから抜いておいた金でまた車を走らせなんとか戻ってきて―――もう、2ヶ月。

 十一は、最後に転がり込んでいたオネーサンの所を出て、バイトで一人暮らししてる。
 たろは、そういやせっかくの休みに受験回数がこなせなかったーと叫びながら、大学の隙間を見ては地道に免許を取りに出かけ、やっぱり試験で落ちてる。
 二志は、多分俺達の中じゃ一番忙しい大学生活を送りながら、でも飲み会とかに呼ぶと結構律儀に参加してる。
 玄は、あれだけの事があったってのに、雀荘は辞めたらしいけど何事も無かったように働いていて、一伊は浪人らしく予備校に通いながら、婆ちゃんの代わりの店番をしたりしている。

 ふわ、と漏れたあくびは、多分昨日の残業の所為だった。夕方からがシフトの倉庫整理は、日中、就職活動をするのにちょうどいいと思ったから。
 しゅーしょく。
 口の中で転がすと、まだなんか妙な気分だ。
 俺達全員、ちゃんと生きていて。
 生きてるって事は、多分、もの凄い事なんだと。
 俺はもの凄い確率を超えながら今生きのびたんだなあとかなんとか、あの日あの浜辺で青空の下海を眺めて、そういうドラマっぽい事を考えた(感じた)から、「ちゃんとしよう」なんて口に出して(出しちゃって)、十一が俺に相槌をうって、そしたら二志がぽんぽんぽんとそんな俺達を早速打ちのめしてくれようとする言葉をマシンガンの如く発射して―――
 もう、2ヶ月。

 ふと、歩く足を止めて、空を見た。
 あの頃。生きながら穏やかに細胞が死んでってとかなんとか、ちょっとセンチメンタル入った頃と体感速度はそんな変わりないけれど、多分、全然違う2ヶ月だ。

「あれ、大成さん」
「あれ、浪人?」
 残業して変な時間に寝て変な時間に起きた所為で(最近結構キソク正しい生活だったのに)、体中ぎしぎし云う。だからスポーツセンターでちょっとバッティングでもしちゃおうかな、なんて考えていた。ついでに、婆ちゃんに今日の晩飯用のおかずとか、貰えないかななんて。
 だから受付で一伊を見た途端、なんとなくがっかりしたのは秘密だ。
「お前予備校どうしたの。もう止めたんか?」
「なんでいきなり止めることになってんすか。俺は授業午前中だけだったんで…大成さんこそ、バイトじゃないんすか」
「俺今日休みだもん。婆ちゃんは?」
「老人会の“はとバスツアー”とかで、帰るの夜っすよ」
「げ。んじゃあ、おかずおこぼれは無しか…」
「上行くんなら、金、払ってくださいよ」
 気落ちした俺に更に畳みかける一伊に、俺は聞かなかったフリして訊ねる。
「上、誰かいんの?」
「さっき、二志さんが来たっすよ」
「…珍しいね?」
 何しろ二志はアホみたいに忙しいらしい。なんか訊くとほぼ必ず、レポートがとか実習がとか、そういう単語が返ってくる。とりあえず、医者になるってのはやっぱその前々から本当にしんどいんだねとか思う。世の中、たろみたいな大学生だっていんのに。
「ちょっと、大成さん、金!」
「えーと、就職したら出世払い?」
「なんで疑問形なんすか!」
 歩き出した俺の背に掛かる一伊の声には、とりあえず、手を振るだけに留めて返した。

 上にいるのが二志ひとりだというなら、静まり返っててもおかしくはなさそうなんだけど。
「…何してんの、にっしー」
「…大成か」
 誰か他に人がいて、ビリヤードやってるとかだったら、二志がああしてなんか難しそうなテキストとか読んでてもおかしく無いんだろうが、一人っきりでそうするのに、いちいちスポーツセンター来る必要がどこにあるんだと思う。
「人待ち?」
「ちげぇ。ただの時間潰し」
「あ、そ」
 一伊が受付の時は大体踏み倒すのが俺達の常だから(まぁ後々婆ちゃんに怒られて請求されたりもするけど)、とりあえず、金が掛からなくて静かな環境って考えるとまぁ、いいのかもしれないけど。
「お前、バイトどうした」
「…なんで俺の顔見ると、みんなその話訊くんだろね」
「大成だからだろ」
「……ごもっともです」
 で、バイトはどうしたと目で再度訊かれたような気がしたので、「今日はホントに休み。昨日残業しちゃうくらい」と返したら、漸く二志はテキストに目を戻した。どうやら俺は本当に信用がないのねーと再確認する。
「やる?」
 キューを取りながら、一応訊くだけきいてみる。
「やんねぇ」
 テキストから目を離す事無いまま、予想通りの言葉が返ってきた。
「俺一人練習すっから、煩いかもしれないでちよ」
「そーでちか。好きにしろ」
 好きにしろ、と云われたので、取り敢えず、始めた。ブレイクは妙に小気味良い音がして、音の割にボールが一つも落ちない事にううむと唸る。
 手玉の方に歩いていった時、ぱら、と二志がめくったページに、なんか人体模型みたいな絵が描いてあるのが見えた。やっぱりアレは教科書かなんからしい。

 ―――アレじゃ、急所何発も撃たれない限り、死なねぇ。

「なぁ、二志?」
「あん?」
 二志の顔は本に向いてて、目は文章を追っかけてなめらかに動いている。
「腹、どうよ?」
「―――」
 顔が上げられて、目が、射抜くような視線になって、俺にぶつかった。
 眉間に皺はまだ寄ってないけど、多分アレはどうみても、不機嫌フラグが立った二志だ。
「気にすんじゃねぇって、最初に云わなかったか」
 恐ぇ。こいつは多分、目で人間を射殺せるんじゃないかって位、恐ぇ。
「いや、へこむような気にしかたで訊いたんじゃねぇし。ほんと、なんとなく。世間話ちっくな」
 慌てて云い募った俺に、二志は鼻で息を吐いた。もしかしなくても俺、すっげー呆れられてる?
 けれど案外というか意外というか、二志は普通に答えてよこした。
「…もう痛くも引きつれもしねぇよ。肉が薄くて盛り上がって色が他より薄い。普通の怪我だろ」
「普通ですか」
「貫通してたら、背中にも同じモンが出来てたかもしんねぇけどな」
「…あ。そう、なの?」
 どうも、その辺は俺によくわからない。二志は最初の手当を玄に手伝わせていたし、その後の手当は殆ど一人でやっていた。俺が手伝ったのは、ガーゼ渡すとか使い終わった包帯を捨てるとかで、要するにちょっと血のかたまりは見ちゃったかも、くらいの物で。
 …抉れて、見えただろう肉とか、筋とか、脂肪とか、そういうモン実際に見てたら、こんな風に妙な好奇心起こさない様になってたんだろうか。
「お前も」
 そこで、何故か二志は云いかけて止めた。
「何」
 止められると気持ち悪い。先を促すと、二志は吐き出すように口にした。
「…アフロ達にとっ捕まった時、ボコボコになってたじゃねぇか」
「…あー、そういや、ね」
 ちょっと思い出したくない事まで一緒に思い出して、思わず鳥肌立ちそうになってしまった。ていうか俺の貞操が守られているから“ちょっと”で済んでんだろうけど、アレはそのまま逃げられなかったら、本気でトラウマだったに違いない。
 …トラウマっていうか、実際今、生きてなかったかもしれないけれど。
「そういや俺、あん時のアザだのなんだの、結構長い事消えなかったわ」
「だから、同じだろ」
「…同じなんですか」
「違ぇのか?」
 そこの、と、二志が顎をしゃくった。
「口の左端。筋残ってんぞ」
「え、うそ?」
「こっからだと、光で見える」
 マジですか、と親指を這わせてみる。…確かに、何か感触の違う所が、有るような気が、する。
「…うっわー。俺今まで気付いてなかった」
 気付くと、気付いてしまうと妙に気になって仕方ない。口端伸ばしたり舌這わせたり、思わず弄りまくってみる。
「マジでコレ、あん時の? 2ヶ月だよ?」
 二志の細い目が気持ち、見開かれた。
「…本気で気付いてなかったのか」
「…本気で気付いてませんでした」
 テキストに目を戻しながら、二志が声には出さず、バカだなと口で云ったのが判った。いや、この程度気付かなかった位でバカにされても。
 云い返そうとした時、がちゃりとドアが鳴った。
「よーっす大成。…あれ珍しい、二志居るじゃん」
「―――ほんとだ」
「あー十一、玄。ちょっとあのさ」
 丁度良かったと、こいこいと手招きをすると、十一が見事なしなを作った。前フリまでするようになったか。
「なぁにダァリン? アタイに内緒話なのかしら?」
「いやお前にちょっと訊きたい事があるのさハニィ?」
 普段通りの小芝居の後「いやあのさ、俺のここんとこ」指先でさっき発見した傷を示すと、玄の眉が少し寄って。
「…ああ、アフロんときの?」十一までもが、一瞬しかめた様な顔になった。が、次の瞬間にはいつもの通り、にやりと笑い。「何、痛いから慰めて欲しいのダーリン?」
「……いや、全然痛いとかじゃねぇんだけど…アレ? 玄も? 十一も?」
「何がだよ」
「大成?」
「俺、傷残ってんの、さっき二志に云われるまで、ぜんっぜん気付いてなかったんだけど」
「…大成、アホの子だったの?」
 そう口にした十一の横で、玄までもが頷いている。
「ほら見ろ」
 こっちを見もしない二志の態度に、余計俺の心は抉られた。
「テメェ以外は全員気付いてんだよ」
「…まーじでー…」
「何、何の話?」
 十一が訊くのに、二志は「大成がアホだって話だ」と、もうどうしようもない回答を出してくれる。
「ああ~、はいはい。そういう軽い話なわけね」
 納得したらしい十一は、台の上のボールをセットし始めた。
「おかーさん、たーちゃんがまた困った発言でもしたのかと思ったわぁ」
「困った発言てなによ、おかーさん」
「いいのよいいのよ。大成今日握れる?」
 懐具合を訊かれたので、とりあえず給料日までの日数と財布の中身を相談する。
「あー、OK。レートは」
「倍賭けでノグチさんから」
「はいよ」
 ジャンケンの結果俺がブレイクになって、いざキューを構えた所で、地響きが耳に聞こえてきた。
「…マル、オア、バツ?」
 十一が呟く。
「今日、土曜日」
 玄が簡潔に答え。
「じゃあ、試験は関係ねぇな」
 二志が返し。
「賭けは無しってことで、じゃあ俺ブレイクから―――」
「焼き肉くいてー!」
 ばったんとでっかい音で扉が開き、けれど誰もがその登場を予想していたので誰も驚かず、ただ俺が一応、ツッコミをいれた。
「たろ、あのね、ここに肉は無いよ?」
「あったりまえじゃん、大成何云ってんの?」
 何云ってんのはお前さんでしょうよ。云い掛けたけれど、目の前に突きつけられた紙っぺらに、俺は一生懸命目のピントを合わせた。
「なにこれ」
「抽選で当たった。2等! 駅前の焼き肉屋30%オフ券!」
 おおおおおと声を上げて紙を覗き込んでいると、「全員居る? 居るよね? 焼き肉行く人ー!」太郎がぶんぶんと空いてる手を振り回した。
「あーはいはい俺参戦。大成貧乏は?」
「貧乏つけんな。俺も参戦」
「行く」
「十一、大成、玄確認~」
「とりあえず浪人は決定として、二志はどうよ?」
 階下に居る一伊の意思は勿論訊かずにカウントに加え、そのまま勢いで二志に訊いてしまったけれど。
 ――― そういえば、時間潰しに来ていたんじゃなかったか?
 最初のやりとりを思い出したが、二志はテキストをぱたんと閉じて、カバンに仕舞った。
「参戦」
「あれだってにっすぃー、用事あんじゃないの?」
「そっちは明日でも構わねぇ。食えるモンは食う」
 …30%オフに惹かれたんだとしたら、さすが貧乏性ドクター発揮っぷりだねと、口には出さず、けど多分今目が合った十一は、俺と同じ事を考えた筈だ。

「そんじゃー、焼き肉! ワリカンな!」
「高い肉どこまでOK?」
「1000円のが700円だろ? 普段と300÷6で」
「50円、得」
「…妙にリアルね」
「積もれば、もう少し得した気分になんだろ」
「ろーにーん! 肉食おーぜ、肉! 来い!」
「ぅわ、な、なななんすか! だめっすよ、まだ婆ちゃん帰ってこないし!」
「じゃー、閉めちゃえ!」
「閉めろ!」
「閉めてしまえ!」
「人、来てねぇしな」
「他に居ない」
「そんな!」

 ―――いつもと違う、けれど、いつもと同じ、2ヶ月目。

たとえ二志エンドだとしても、大成が執着(というか感化されてのめり込むというか)するような事が無ければ、多分皆そのままの日常になりそうな。別に二志、恋愛とェローを絡めて重要に見る人じゃあなさそうだし。そこに重さ置いちゃいそうな一伊と玄の場合、エンド後大成が流されてカポーという方向になってしまいそうではあるけれど。
「死ぬかも知れない状況で種の保存本能が働くマジックでくっつく」っていうのが、どうもね。

この場合、十一は、いつかちゃんと昇華できる人と出来事に会えばいい。
たろは、いつかちゃんと、「逃げる」という為の勇気と向き合えればいい。
玄と一伊はええと、ええと、ど、どうなのかな……しつれん?

ちなみに、どうして二志が撃たれ役なのかというと、ブログで「二志祭り」とか宣ってた時のものだからです(笑)

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