0013-01 (0026)
叩いても叩いても、モルドは幾らでも形を元に戻していく。俺とチャクだけじゃなく、辺りの連中(多分同業者)も、段々とうんざりしかかっていた。移動しては殴り、殴り倒しては移動しという一連を、どれだけ繰り返しただろう。
突然、モルドの動きが変化した。集まってる! それは誰が発した驚きの声だったか。個体数で勝負する事に限界を感じたのか、モルドの破片が続々とひとつに集まりだしたのだ。
「…あれに斬りかかるのは面倒そうだな」
「んん、一部分凍らす事は出来ても、全部ってのは大変そうだねぇ」
喋りながら、俺は脇にいたモルドを散らし、チャクは目前のモルドを凍らせた。
慣れてしまえばモルドの扱いは非常に楽だ。勿論切ってもすぐ戻るという点を無視した状態でではあるが。事実、今回チャクは何者からもダメージを負っていない様だった。……もしかしたら初めてじゃないのか?
「各員、巨大化中のモルドより待避!」
胴間声が響いた。どうやら士団の人間の様だ。その男の脇から、1m程の筒を持った衛士が現れる。筒の先端には細長い紐。
「…あれ使っちゃって、この森火事にならないかな?」
「なんだって?」
チャクはあの筒がなんなのか知っているらしい。問おうとしたら「熱気浴が好きならいいけど、そうじゃないならもちょっと離れた方がいいかも」と云い残し、自分はさっさとモルドから遠くへと移動していく。訳も判らず俺もチャクに倣った。
巨大モルドの周辺が円形状に空いた。胴間声の男と衛士とが互いに頷き合う。すると衛士は筒先端の紐をぐいっとひっぱると、槍投げのモーションでモルドに向かって投げつけた。
「…アレ狙いでの掃討だってなら、先にそう伝えておくべきじゃないのか?」
「いいんじゃない? 誰も怪我してなさそうだし」
モルドに当った筒はまず閃光を発した。それに思わず腕で目を庇うと、轟音と共に熱風がやって来た。細く目を開ければ、巻き上がる炎と蒸発していくモルド。そうしてまた、静寂が戻る。
「見ての通りだ」男が辺りの人間に向かって声を張り上げる。「モルドはある程度の損傷を与えると、ああして個体を守ろうとする。それを待って焼き尽くす。掃討は筒が尽きるまでだ。さあ! 次へ向かうぞ!」
おおと腕を突き上げる男(一人で盛り上がってるな)の声に従って、他の群れを探しにその場を離れる。
「良かったな。働き次第で野宿は回避出来そうだぞ」
「んでも、筒って後何本あるのかわからないじゃん~。こんなに面倒だと思わなかったのになぁもぅ」
結局、その後4度程轟音を響き渡らせたところで、掃討は終了した。したが、時刻は真夜中。テュパンに戻った頃には、見事に夜が明けていた。チャクはもう、昼過ぎまで寝るつもり満々らしい。今日テュパンを起って他に行くんじゃないのか?と釘を指しておいて、市場通りに差し掛かったところで別れた。オークションに入札をしていたからだ。
さすがに眠い。俺も昼まで寝ようか。