0013-02
うっわー! 叫び声の割に声量の小さなそれに起こされた。市場で競った品(といっても薬草)と、出品したもの(先日の木材)の料金を受け取りに行って一寝入りしようとベッドに潜り込んだのが多分6時少し前。現在時刻は、と部屋を見渡して、室内には時計が無い事を思い出した。
「ちょっと! ユキヤ! どうしよ! えっコレ何ッ!?」
「…リトゥエか?」
どうやら騒ぎの主は、神出鬼没のこの流翼種の様だった。まだしゃっきりしない頭を無理矢理起こし、掛け布にくるまりながら立ち上がる。
そして、唖然。
「……………いつ拾ったんだ?」
「私より大きい物を、私がどうやって拾うの!」
そりゃそうだ。しかし目の前の物体を見たら、誰だって現実逃避したくなるのじゃないだろうか。
物体。
淡いブルーグレーの体毛。
ふわりと丸まった尾。
くふくふと動く、薄ピンクの鼻。
あたりをきょときょとと見回す青い瞳。
そして、長い耳。
「………ウサギ?」
「孵ったんだよ! ホラアレ! 卵!」
──なんだって?
「ちょっと待て、なんだ、グローエスじゃウサギは卵から孵るのか?」
「そんなわけないでしょ! …あっいやでも今この子は卵から孵ったんだけどえっとでも」
…状況を、整理しよう。
目の前にはウサギだ。卵から孵ったとかいう辺りは取り敢えずどうでもいい。現在2足歩行をしながらふんふん辺りを見回すこのウサギ、多分分類上はディオーズの一種なのだろう。とすると、良く市場で流れている、愛玩動物としてのディオーズ、に、なるのだろうか。調教師ギルドなんてのはコイツらを使役して、戦闘に使える様にも出来るらしいとかって話だ。いやそこは取り敢えず良いんだが。
…そういえば、結構高値で取り引きされていた様な。
「…売るか」
寝惚けた頭で出た解答に、リトゥエが大きく騒ぎ出した。
「ええっ、いきなりその結論に行くんだ!? オニ! アクマ! 人でなし!」
「飼い方が判らん」
「その位! エサあげて遊んであげれば良いのよ!」
「…何食うんだ。野菜でも適当にやってりゃいいのか?」
「わかった! リトゥエさんに任せなさい!」
お前が食われるのか? そう云いかけた俺に、「調べてきてあげるわ!」宣言したリトゥエは、そのままぴゅーっと窓から(文字通り)飛び出して行ってしまった。
残された、俺と、ウサギ。
「……どうしろと?」
掛け布にくるまって寝惚け眼で多分寝癖で跳ねた頭の風体の男が、ウサギとお見合い。…なんと奇抜な絵面か。
テュパンの観光協会は一体、何故こんな物押しつけくさったんだ。溜息を吐き出したところに。
「あー! ユキヤくん! なにそれそれなに!? うっわー! ふかふかだ! うわー!!」
煩いのが、満を持して戻ってきた。