0015-02
「いっそのこと、取り敢えずグローエスを横断してみるのも悪くないな」
今日の朝食は宿で摂った。ルアムザに旨いモノがないというわけではなく、単純にウサギを考慮しただけの事だ。
「ん~なんかおのぼりさん全開だね」
サラダに入った豆と格闘しながらチャクが云う。多分その豆はフォークで刺すよりスプーンで拾った方が早いぞ、チャク。
「ん~と、北から西がカルエンス、北東にクンアール、んで南東にオルスか。どっち行こうか? いっそダイスで決めようか」
「誰が持ってるんだ、そんなもん」
そっか~、そうだよねぇぁぁぁあ。
首肯の声と同時に勢いよく豆にぶつけられたチャクのフォークは。豆を見事にすっ飛ばし、チャクの奇怪な声と共に、ウサギの鼻面に当たって跳ねた。ウサギが床に落ちたそれを食う。
「あ~勿体ない。でもまぁウサギが食べてくれたから良いか」
「…そういえば」ふと考える。「俺はコイツが菜食なのか肉食なのか雑食なのかも全く判らないんだな」
「ん? ペットフードあるからいいんじゃないの?」
「例えば、人間には今お前が飛ばした豆も大して味は濃くないが、こんなウサギに喰わせて塩分過多になったら面倒だろうとか」
「ユキヤくん、ホント変なところ律儀だよね」
失礼な。
脚にじゃれつくウサギを爪先で弄りつつ、側にやって来た給仕に食後茶を頼むと、卓上の地図に視線を戻した。
「それで、どうする。お前どこか希望無いか?」
「ん~さっきのユキヤくんの聞いて思ったんだけど、タレスに行かない?」
「タレス?」
地図を辿る。有った。カルエンスの首都ガレクシンから南、砂漠の中だ。オアシスによって発展した町か何かなのだろうか。
「そこに何か有るのか? 砂浴びでもしに行くのか」
「…どうもユキヤくんて、なぜかぼくに凄い偏見が有るよね。そうじゃなくて、調教師ギルドって、そこか、えーと、ルルフォモ…ちがう、ルルホメ…じゃなくてえ~と、ん~、まぁいいや、そのルル何とかにしかないんだって。時間的に考えて、ユキヤくんもそろそろ上位職終わるでしょ? ていうか多分ぼくと一緒くらいだと思うんだけど」
「…ああ、かもな」
「そしたらさ、ウサギの事も考えて、次テイマーになったらどうかと思うんだよね。テイマーの技術身につけたら、戦闘に役に立つ事してくれる様に出来るっていうし、ウサギ。んね、せっかくだし、どう?」
…まぁ、確かにその提案は悪くはない。と、思いはするのだが。
「ところで、お前は次どうするつもりなんだ」
「ん、ぼく? ぼく預言者ギルド行ってくるよ。神蹟と魔術でのイーサ干渉式の違いも気になるし、両方修めて初めて就けるクラスにも興味有るし」
「…成程」
つまりこいつは自分の興味で精一杯なので、楽しいふかふかを弄り続ける為にも、手近な人間にその辺の事を頼みたいと。多分意識してそこまで考えちゃいないだろうが、その辺りが奴の深層心理なのだろう。
――そうだな、今までこいつを壁だの盾だのにした詫びとでも考えればいいか。
「判った。じゃあガレクシンに向かって、そこで依頼の1つもこなしてから、タレスに向かうか」
…決して、ウサギに絆された訳じゃあない。
「やった~。良かったねウサギ! これで捨てられそうにないよ!」
チャクは屈んでウサギの両前足を取り、上下にぶんぶんと振った。多分、ウサギは何云われてるか判ってないぞ、チャク。