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0019-02 (0039)

 ごめん、私暫くマリスに付いてるから。
 そう云ったセンリと、当事者のマリスを宿に残し、俺とチャクは情報収集の為に村へ散った。

 泥海まであと少し、というところで、巨大な蜂に遭遇した。太い針でもって、俺達に襲いかかってくる。はたき落とそうと剣を振り回し魔法をかけつつ走り、何とか逃げようとしていたのだが、その虫がマリスの首筋を刺した瞬間、彼女は膝から頽れた。数瞬後にチャクが炎の竜巻(フレイムスクイーズ)で仕留めたのだが、マリスは意識があるものの体に力が入らないのか(麻酔か或いは麻痺毒の一種が針から流れ込んだのだろう)起きあがる事も出来なかった。センリと俺と交代で背負いながら、泥海に面した場所へたどり着いたのが日暮れ少し過ぎ。遠くに立ち上っていた煙に人がいる事を確認して、そこへ辿り着いたのが夕飯時、村に1件だけ有った宿(というより下宿場の様な)に部屋を取り(というより“間借り”の方が相応しい)、そうして、今に至る。

「んじゃ、ぼくあっちから回るね」
 二人一緒に居ても効率が悪いと、チャクと別れて村を歩く事にした、とはいえ、大して広いわけでもなし、数十分もしたら合流する事になるだろう。
 元湖であるその水源は、泥濘に埋め尽くされているという状態の割に、あの雑菌が繁殖しまくっている様な状態特有の臭気が感じられず、その色と状態以外は確かに“湖”と呼んで差し支えない風だった。
 その光景について、唐突にリトゥエがおかしいよねと呟いた。曰く、水源だろう場所が汚濁したというのに、どうして村がそのまま残っているのか、と。
「それを含めて尋ねてみればいいだけの話だろ。…大体、お前いつも突然現れて云いたい事だけ云ってどこかに消えるが一体どういう了」
「あーユキヤユキヤほらあそこ。人がいるよ!」
「おい、お前無理矢理はぐらかそうと」
「任せて! 私が色々訊いてきたげる! んじゃね!!」
 俺の言葉を全く無視して、リトゥエは人の集まり──どうやら誰かの居宅たる一軒家の軒先に卓と椅子と酒を集めて飲み交わしている──へとすっ飛んでいってしまった。
「……まぁ、いいか」
 アレも莫迦じゃなかろうし、曲がりなりにもイーサ干渉に長じた種族でもある(そういえば出会った時には、自ら追手の一人を伸してさえいた)。なら何か有っても多分自分で何とかするか、助けを呼ぶかくらいするに違いない。そして本人(妖精?)にやる気があって、任せろと云っている。なら俺は留守居に甘んじようじゃないか。…いや、どちらかといわなくても、“甘えよう”かも知れないが。
 リトゥエが酒飲みの一団の居る場所へ到着したのを見やってから、俺は踵を返した。さすがに歩きづめで足が張っている気がする。とっとと飯を食って寝よう。

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