0022-02 (0044)
「んで、んで、んで、名前なににしたの?」
ルアムザへの道中、クラスチェンジの経過報告がてら雑談に興じていたのだが(変な事務員がいたとかなんとか)、突然チャクが食いついてきた。勿論、ウサギの名前の下りでだ。そんなに気になるか?
「はくひ」
「ハクヒ? また面白い名前だねぇ。なんか意味あるの?」
こいつに面白いと言われるのは心外だが、別に大した意味じゃない。さあさあさあと鼻のとがった事務員に命名を強要されながらコイツの毛の色をぼんやり眺めているうちに、実家の池で見た薄氷を思い出しただけの事だ。
「…で、“薄氷”と書いて、“はくひ”」
「ふーん。雅とおんなじで、東方の字なんだ。ん? ユキヤくんてそっちの人?」
「実家は」
チャクはへーほーとひとしきり(神経を逆撫でしそうな方向の)声を上げてから、んじゃあユキヤくんは今度はなにを育てられる人なの?と訊いてきた。
「いや、ウサギの使役方法は一通り判ったから、テイマーは辞めてきた」
「え? そうなの?」と、これはセンリ。「私てっきり、一通り上位までこなすのかと思っていたけど」
そもそもテイマーになったのはこのウサギ…いや、薄氷の扱いを覚える為で、別に他に何か使役したいという願望は全くないのだ。だったら、きちんと前衛として戻った方がいいだろう。そう思っただけの事だ。
「じゃあ、ユキヤさんは探索者ギルドに戻られたんですか?」
「いや、そのまま、戦士ギルドに寄ってきた」
「え?」
さすがに全員の顔が一斉に俺の方を向くというのは、あまり気分のいいものじゃない。
「あれ、だってユキヤくんて、力任せにどっかーんっていうの、あんまり好きじゃないんじゃなかった?」
そこはそれ程変わってない。ただ、一応俺はこのメンツの中では前衛だ。だったらそれに多少なりと沿った転職をした方がいいんじゃないかと思い、手っ取り早く筋力でも多少付けようかというだけの話だ。
戦士ギルドで転職傾向の一覧を眺めていたら、スカウトを終えてからなれる職に格闘術を使ったものがあった。それは、懐に潜り込んで戦うタイプである俺と方向性は合致している。
「というわけで、暫く目端がどうとかいう辺りでの期待には添えないと思う。だから悪いが、当分はそういう類の依頼とかは無理だ」
「まぁでも、それはルアムザの公社次第よね。ひょっとしたら、ユキヤが戻る前に私がスカウトになってるかもしれないし」
「…そうなのか?」
問うた俺に、センリはそろそろ上位クラスの残りが複合型ばかりになってきていて、さらに残りのうち2つがスカウトとの複合なのだと云った。そういえば探索者ギルドの上級職も、戦士との複合型が多いのだという。そういった相関的な部分が、どこかにあるのかもしれない。
のんびりと歩いていたら、ルアムザに着いたのはもう日暮れ前に差し掛かる時だった。公社へ行くのと宿を取るのとで、2手に別れた。