0018-02 (0037)
「ログレブルにはお宝が眠ってるって話も一応はあるな」
人と馬を休める為にキャンプを張っている時、商隊を束ねる男がそんな情報を寄こした。
澄んだ湖から淀んだ泥海へ。そういった変化が有れば調べてみたくなるのが冒険者の常という奴で、その泥海ログレブルにも時折お宝目当てにやってくる者が居るのだという。但しあまり成果の見られた試しはないのだとか。
お前さん達テヌテについたらどうするんだい? 問われたので、素直に特に予定は無い事を伝えた。
「ならせっかくだから、ログレブルまで足を伸ばしてみちゃどうだい。今までろくなもんが見つかってねぇって事は、今度こそ何か有るかもしれねぇってこったろ」
“本当に何も無い”という可能性を誰も考えないというのが、所謂冒険者精神の現れなのだろうなと思う。
テヌテは隣国ノティルバンとの境目であるタラス山地の裾野に広がっている。多分その山裾へ近付いた方にでも、泥海ログレブルが存在しているのだろう。調べていないから、正確なところは判らないが。
何事もなく着いちまったなと、依頼主が苦笑混じりに愚痴をこぼした。俺達を雇ったのはそもそもただの“おまもり”の様なもので(商隊自体がそう大きいものでない事から、野盗やらに襲われる率もその分低い)、それであればこその値段設定だったのだろうとは思うが、やはり余計な食い扶持増やしただけだったという結果からみれば惜しくもなるのだろう。
荷はこれから街外れの工場へと持っていくらしい。お前さん達は冒険者用の宿だろう? という問いに肯定を返すと、テヌテの中心近い位置にそれが有る事を教えられ、「だったらここで別れた方がいいな」と、報酬の入った麻袋を渡された。
「ひとまず先に、宿を取りに行きましょうか? もう遅いし、後はご飯食べるくらいよね」
センリの言葉に頷いてから、街中へと入っていった。高地独特の澄んだ空気は、丸い月をより鮮やかな金色に輝かせていた。多分明日の朝は冷え込むのだろう。