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2004年05月07日

0010-01 (0020)

「確かそちらの方は合格されていたと思いますけれども、宜しいのですか?」
 やはりこの白い上衣が決め手なのだろうか。メイアは、受付で見せた吃りなどどこへやら、淡々と喋る。
 養成所の中庭。今日も陽光は緩く差し込み辺りを照らす。
「んと、ぼくは付き添いなので~」
「でも、試験は受けられるのでしょう?」
「そうですねぇ。いちおう。付き添いなので」
 付き添い付き添いと煩い。確かに再戦を頼んだのは俺だが、嫌なら嫌で部屋で待っていてくれても全く構わなかったのだが。
 こほんとひとつ咳払いをしてから、メイアは続けた。
「では、以前にも行った話ですけれども、最終試験について、再度ご説明させて戴きます──」

「例えば、パラディンでダメだったら次ウィザードにする?」
「パラディンでの結果次第だろうな。“運が悪かった”って事もあるかもしれない。ウィザードが一撃でやられたのと同様に」
 助力者の待つ部屋に向かいながら、チャクと軽く打ち合わせる。
「だが」
 扉の前で、姿勢を正す。
「お前は実際それで成功してるんだ。なら成功した方を採るのは当然だろう」
「まぁそうだね。それじゃ~お願いしましょうか~」
 ノックを、ひとつ。

0010-02 (0021)

 陽光は、やわやわと室内に潜り込む。細く開けた窓から入る風が、レース地のカーテンを揺らす。穏やかとしか云いようがない一時。
 それを破ったのは、慌てた様に布団をまくり上げた衣擦れの音と。
「えっ、あれっ、んんんっ!? ぼく何してるのっ!?」
 半ば裏返り掛かった叫び声だった。
「気付いたか」
 読みかけの本(適当に手に取った、室内の本棚に有った架空の旅情日誌物だ)を閉じ、挙動不審に辺りを見回すチャクに顔を向ける。そのチャクはといえば、窓から見える景色が中庭である事を認識し──そういえばこいつも以前この部屋に運ばれているのだろう──目に見えてがくりと肩を落とした。
「つまり、ぼくはまた一人気絶して合格したんだ」
「そうなるな」
 ああ~と空気が抜けていく様な声を出しながら、チャクは前方にへなへなと潰れた。

 今回の壁(語弊はあるが、多分この云い回しが正しいんだろうな)は、チャクだけではなかった筈だった。そう、助力者たる人間がいたのだから。俺の様に、敵の視界を考えながらの移動をしている様には思えない動きをするパラディン。つまり普通に標的となる条件としては、十二分にあったのだ。
 となると、チャクが今回(相も変わらず)狙われ続けたのはやはり、この男が相手の集中を集めるオーラか何かでも出しているのじゃないだろうか。俺が相手の対象になり辛かったとはいえ、確率的にダメージを受けるのは(相手が単体攻撃のみとして)1/2、それが都合4回で4連続。……多分、俺の所為だけじゃないと思うのだが。少なくとも、全面的にではないと思う。
 それでもチャクはかなり耐えた。勿論、一撃で吹き飛ばされそうな魔法を彼女があまり使わなかったのも理由の一端だろう。というか、攻撃手段としての魔法を今回は1度しか見なかった。1回は補助魔法、後は(信じられない事に)素手格闘だ。成程、運も実力のうちとはよく云ったものだが、なんだ、彼女は己の行動をくじ引きででも決めなければならない何かでもあるのか。
 ともあれ結果、一度チャクを庇ったパラディンが少量のダメージを負った物の、俺は全くの無傷、チャクだけが上衣に見事なかぎ裂きを作る結果となったのだ。

 ──という経過を簡単にまとめてみせてから(勿論自分の都合に悪いところは省いた)結果を続けた。
「最後、チャクが吹き飛ばされたのと、メイアがパラディンからの衝撃波(ソニックブーム)を喰らってたのが、ほぼ同時だ」
「なんだ~。だったら、もうちょっと後にするか先にするかしてくれれば良かったのに~」
 チャクはベッドの上で足をばたつかせ暴れる。…お前は年端のいかない子供か。
「どうする? とりあえず俺の目的は果たした。お前も別に合格を取消されたとかって事もないが…」
「ん。ここに居ても仕方ないし。1日潰れるのはやっぱり勿体ないし。テュパンに戻るよ。それに」えへん。と偉そうなわざとらしい咳払いひとつ。「元々僕がここに来たのは」
「……わざわざすまなかったな、“付き添い”頼んで」
「いえいえ、どう致しまして」
 ひょっとして、俺がこいつを壁にしている分、こういう辺りで釣り合いが取れてるんじゃないか?
 免罪符には欠片もならない様な事を浮かべながら、退室の手続きの為に部屋を出た。

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