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2004年05月18日

0021-01 (0042)

 道中、細身の四足獣(後で知ったのだが、赫く輝く毛を持ったコイツらはスパルカといって、その毛皮が高値で売れるのだそうだ。損をした)に襲われたが、センリが爪に引っかかれた程度で(直後マリスが回復魔法を掛けたので全く大事には至らなかった)、無事、件の“祠”に辿り着く事が出来た。
 そこは祠として態々誂えたというよりは、元々有った小さな洞穴を有効活用した様な場所だった。但し、昨日一昨日と飲んだくれていたあの老爺達がこまめに手入れをしているらしく、辺りの景観を鑑みるに、そこだけが無闇矢鱈と片づいている。まさに「小綺麗」という単語が相応しい状況だ。
「…なにもないねぇ」
 チャクの呟いたその言葉は多分、誰に向けられたものでもなかったのだが、何故か俺がぎくりとした。…一応俺にも良心というものくらいある。勿論。当然。ここの情報を持ってきたのは、紛う事なく俺なのだ。
 なにもないねぇって。云いながら、センリは首を傾げながらチャクに向いた。
「チャク、一応預言者ギルドの人間でしょう? 何かこう、神様~っていう感じ、しないの?」
「ぼく、無神論者だし」
 …それで良くギルドに登録出来たものだ。
「マリスは? 判らないか」
「私が仕えているのはイテュニス神ですけれど…万一その眷属の神仏であれば、或いは、判ったかもしれませんね」
 つまり、判らんて事か。溜息を吐いて、もう一度辺りを見回そうとした時。
『居ないよ、ユキヤ』
 唐突に、声の様な物が脳に響いた。
『あー、声じゃないよ。思考をイーサの波に直してからそれに指向性を持たせて流してるの。んで、その波の反射の時に、ちょっとユキヤの思考も届くかな』
 …人の知らん内に、この妖精はまたなんだか勝手な事を。
『知らない内にはならないって。今し方伝えたでしょ。まず私が思考を流さないと反射しないんだってば。だから勝手に受信は出来ないし、安心していいよ。…てまぁ、そこは取り敢えずさておくけど、とにかくこの祠──』
 もし神がこの祠に居着いているのだとしても、残存思念だとかそういう類を鑑みると、ここ数日は全く帰ってきていないはずだ。腰袋に入っている筈の流翼種はそう云った。
『だから云いにくいんだけどすっごい無駄足』
 …云いにくいというのなら、まず云い淀む位の事をして見せろ。
 成程、意志疎通を思考のみで行うというのは、思考をいちいち言語に直すのではなく、そこから派生したイメージが勝手に飛び交う様なものであるから(俺は今受けた情報をいちいち言語として直して脳に反芻したが)、口に乗せる会話と異なり、もの凄く高速で済むらしい。この間、瞬きひとつ程度の時間しか掛かっていない。
「んーまあ、それじゃあたのしいミニ旅行だったってことで、帰ろうか~」
「まぁ、宿代だけが無駄に掛かって、お前の貧乏ぷりに拍車が掛かったって事だな」
「ぅぐ」

 現実を思い出してよっぽど堪えたのか、村を出る前に摂ったチャクの昼食は、普段よりも随分と質素なものだった。

0021-02 (0043)

 テヌテに戻った俺達は、早々にガレクシンへと向かっていた。路銀の乏しい二人が地道な集貨活動したいと申し出たのだ。…とはいえ。
「…ガレクシンで、短期間で稼げる物はごく僅かだった様な気がするんだが」
 折良く通りがかった荷馬車の中で、俺達は互いに公社で受けた仕事のあれこれについて、情報交換を行った。結果、出た結論がコレだ。
「そうですね…。それでは、一度、ルアムザの方へ出ませんか? グローエスの中心ですし、これからの動きも取りやすいでしょう」
「ルアムザか~。あそこいいよね。風のニオイとか。ちょっと古臭い感じで」
 膝の上に雅とウサギの二匹を乗せたチャクが、これ以上ないという様な幸せ顔の目尻をさらに下げた。
「古臭い?」
「そう。なんていうかなぁ、こう、ちょっと昔の図書館の中みたいな。落着いた感じの。ユキヤくんにはわかんない? あーぼく、ああいうところでのんびりおいし~い紅茶でも飲みながら思いっきり読書に耽りたいよ」
 …そんな事しているから、金がいつまで経っても貯まらんのじゃないだろうか。

「そういえば、チャク、そんなローブ持ってたの? 初めて見るけど」
 さすがに遅い時間にガレクシンに着いた為、ルアムザへ出発するのは明朝という事になった。そこで久しぶりの木賃宿に部屋を取り、金銭の乏しい二人に会わせて宿の定食で晩飯を摂る事になったのだが、そこに現れたチャクはセンリの云う様に、今までの淡い紫のローブではなく、上から下まで濃いグレーに取って代わっていたのだ。勿論、髪だけはいつもの通り薄い金だったが。
 どうやら誰かに突っ込んで貰いたい所であったらしい。途端目を輝かせたチャクに、俺はああまた長くなるなとぼんやり思いながら、ウェイターにビールを頼んだ。
「あ、これ? ほらぼく、テヌテで一旦ギルド行ったじゃない? それでプリーストに転職したんだけど、んーと、ほらサマナーってクラスマスターするとさ、上級悪魔の召喚出来るでしょ、それぼくの夢のひとつだったんだけど、それはまぁ置いといて、プリーストっていうとこう、なんかすごくこう、正直者が莫迦を見るみたいな感じだけど、ん、ちょっと違うか、まあとにかく、ぼく無神論者だし、その上悪魔なんか喚んじゃうし、これはもうあれかな、ダークプリーストとか呼ばれちゃう方を目指そうかなーなんて」
 …こいつの脳が突拍子ない方向なのはいい加減判ってはいたが、さすがに最後の一言だけにはツッコミを入れるべきだろうか。

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