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2004年05月14日

0017-01

 ギルドで教えられたのは、調教対象の動物に対する向き合い方だった。
 つまり、極論すると。
「エサを与えつつ、適度な運動が必要らしい」
「ふつうじゃん」
 宿に戻ってきた俺は、チャクにせがまれ調教師ギルドの話をしていた。その感想がこれだ。とはいえ、俺の感想も大差ないのだが。
「下位クラスだから仕方ないといえばそれまでの様な感じだったな。今後、専門的な知識の必要な──例えば獰猛なタイプの奴だとか、爬虫類だ鳥類だとかの分類だそうだが、そういった話が組み込まれていくらしい」
 つまり、テイマーギルドにおける中位だ上位だのクラスというのは、要するにそういった種別毎の専門家になるということだった。
「そっか、ふつうの猫とか犬ならなんとなく解るかもけど、突然ディオーズのウサギを使役しろって云われてもむつかしいよね」チャクは一頻りうんうんと納得するように首を振った。「んで、ユキヤくんはこのウサギ、どうするの」
 どうと云われても困るが、そうだな。
「特殊能力が有るとかいうのは判ったが、それを俺が自発的に使役できる方法ってのは無いらしかったな」
 特殊能力!? 俺の言葉にチャクは過敏に反応した。
「凄いねウサギ! なになになに、どんなの?」
「寝かす」
「なにそれ」
 言下の俺の回答に、これまたチャクが言下に返した。ので、先程得た知識をそのまま披露する。
 要するに、肺とは別に眠くなる成分(アルファ波の出でも良くするんだろうか)をたんまりと溜め込んだ呼気を吐く事の出来る器官があって、それを空気の流れに乗せる事で、息の混じった空気を吸った者が眠りにつく事が、
「あるのかもしれないそうだ」
「なんでそんなすごい仮定形なのかな」
「効き方に個体差があるって話だと思うが、それにしたって曖昧だったな。…まぁ取り敢えず、コイツの存在価値は見出せた訳だ」
 ウサギの耳の付け根を指先で掻いていた俺に、チャクがにまにまと笑みを浮かべる。何だ?
「んんん。ユキヤくんは素直じゃないなあって思ったんだよ」
 …何かとてつもない含みは感じられるが、無視する事にした。

0017-02 (0034)

 異端査問官(インクイジター)というクラスは、光のちからで闇のものを征することに重きを置くものだそうだ。いや、まぁ、そんな事はどうでもいい。
「あ、マリス、服変えたの?」
「ええ。クラスチェンジもしたし、ちょっと気分を変えてみるのもいいかしらと思って」
「へぇ~。かっこいいかっこいい。とっても似合うね。ねえユキヤくん」
「ああ、そうだな」
 んもなにその面白くない感想はとかなんとかチャクが云っていたが、それもどうでもいい話で、つまり、俺はその方向に免疫が無かったんだなとそういう話なんだが、何を云いたいんだか判らなくなってきた。ふと足下に目をやったら、ウサギがてててとマリスの足下に寄っていってじゃれついていた。これまで気にしたことは無かったが、お前ひょっとしてオスか。
 服の事は良く判らない(どういう形のモノをどう呼ぶとかそういう話だ)から、マリスが着てきた服がどういうものなのかもよく判らないが、それでも、鮮らかな緋の引き締まった長いスカートは、先般まで着ていたゆったりしたローブ(確かイテュニス神を崇める神殿で貰った物だとかなんとか)との差違も相まってか、とてもよく似合っていた。その位は判る。
「さーて、それじゃ全員揃ったし、出発しましょうか。……ユキヤ? ウサギばかり眺めてどうかした?」
「ああ、いや。別に」
 だから何が云いたいかというと、(重なるが)俺はそういう、つまりこうぱりっとしたというか凛としたというかそういう類側の抵抗性が無かったんだなという話で、決して性癖がそうだとかそこまで行く話じゃないと云う話だ。話話って文法までおかしくなってるな、いや文法じゃなくて単語の選び方か。この際どうでもいい、とにかく頭をさっさと切り換えよう。
 もふもふと床板の匂いでも嗅いでいるらしいウサギの首根っこ引っ掴んで肩に担ぐと、既に出て行っていたチャク達を追う為、足早に宿を出た。

 ひとまず4人で過ごすに辺り、戦闘での癖であるとかそういう辺りをお互い把握したいという事(と、ついでに金稼ぎ)で、ガレクシンに戻ってから、公社で仕事を得る方向で話が付いていた。互いに今までどんな依頼をこなした事があるのか、これまでどうしていたのかをざっと話しながらガレクシンへと向かう。
 途中、吸血蝙蝠と大烏の編隊(というより、烏は蝙蝠がエサを捜すのを利用していたのだろうが)に出会したが、なんなくこれを仕留めて(今回はセンリが魔法を使ってマリスが殴っていた。……何故この二人は手ずから殴りたがるんだ)、無事、夕刻前にガレクシン入することが出来た。宿を取ったら、早速公社へ向かおう。

0017-03 (0035)

 というわけで、2日ぶりにガレクシンの斡旋公社へとやってきたのだが。
「…商隊の護衛くらいしか無くないか?」
 サマナーとしての修練が終わったとかで、センリは戦士ギルドへと向かっていた。魔法剣士(ルーンフェンサー)を目指すのだそうだ。そしてマリスは、雅(と、ついでにウサギ)の面倒を見る為宿に残っている。
 というわけで、チャクと二人こうしてやって来たのだが、好事家がなんとかいう珍品を捜しているだの、原石の加工をさせてみろだの、草を持ってきてくれだの、そういった依頼しか見つける事が出来なかったのだ。
「んでも、洞窟に潜る手伝いっていうのもあるよ?」
「クラスチェンジしたばかりの人間が2人も居るんだ。もう少し軽い方が良くないか」
「あー、ユキヤくんはやっぱり弱体化してるんだ?」
「多分な」
 面白い話なのだが、クラスチェンジを行って、その後の講義を受けている最中、どうやらなんらかの刷り込み(インプリンティング)でもされているのか、それまで発揮出来ていた力を100%出せなくなるという事がある。逆に、いままでは出来ていなかった様な事(例えば目端を利かせるという物理的な事に加えて、そういった危険を肌で感じるというある種の第六感の様な)が出来る様になったりもした。一体冒険者組合が、そしてギルドがどうしてそこまで“クラス”という概念に拘るのかは定かでないが、しかしその判りやすい“役割分担”的な能力格差は成程、パーティを組んで行動するという点については有用なのだろう。
 そして俺が“弱体化”したと感じた原因は、先般大烏を仕留めようとした際に、今までなら難なくこなせていただろう行為──狙った腱を叩き斬る──が、想定していた効果に程遠かった事に因る。
 今回のクラスチェンジでセンリが前衛として能力を発揮できるようになるわけだが、前衛で壁の一角の筈である俺は、今後暫くは自身の戦闘よりもウサギの扱いに重きを置く必要がある。というか多分無意識にそうなるに違いないと思う。……刷り込みというより催眠の方が正しいのかもしれない。

 今日は宿ではなく、表にでて夕食を取った。センリは一度、戦士ギルドの中位クラスまでは終えてから魔術師に転職し上位まで済ませたとかで、今後戦士ギルドで同じ道を辿る場合、一日二日で上位になれるのだという。マスターしたクラスには、何らかの特典が付くらしい。という事は、俺の場合、スカウトとニンジャはほぼスルー出来て、ニンジャマスターではない方の上位クラスまで楽に行ける様になるという事か。だが、確かもう片方は、魔術師ギルドで一通り学んでからでないと就けなかった様な気がする。
 そうか、テイマーが終わってからの事を考えなければならない。チャクは完全に後衛を全うする気でいるし、マリスもどうやら預言者ギルドのクラス(但し他のギルドでの能力が問われないもの)をまず総なめにするのだそうだ。となれば、俺はやはり壁の一角になる必要がありそうなのだが──大人しく、戦士ギルドで揉まれてきた方がいいのかもしれない。

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