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2004年05月

0007-03 (0015)

 公社は元々、冒険者組合がまだ『組合』としての確固たる基盤を形作る前、つまり冒険者同士がただよりあって集まっていた頃に相互扶助を目的として作られた『冒険者ギルド』だったそうだ。その頃は“まあ何とかやれている”という程度のものであった様だが、あの《虹色の夜》が起きた。
 以後発生した様々な異変に対して柔軟に(というか勝手に)対応していく冒険者達に目を付けたのは、自警を前提とした金持ちではなく、そこをすっとばしてグローエス五王朝――つまり政府だった。多額の出資を行い各種手続きの制度化を実施、そして現在に至る、とのことだ。
「結構立派な建物だよね」
 赤煉瓦を見上げてチャクが云う。二階建ての重厚な建物は壁一面の赤煉瓦だ。海風によって風化し随分と歴史を感じさせる風合を醸し出していが、公社の成り立ちを考えるに、どちらかといえば新進の企業に当たるんだろう。
 掲示板は、一面“これが全て依頼なのか”という位に要件やら報酬が書かれた紙に埋め尽くされ、元の地の色(多分緑)が全く判別の着かない様相だった。依頼があるところに冒険者が居り、冒険者居るところ依頼有り――確かにテュパンは、交易が盛んな事から人の流れも激しい為、冒険者も情報を求めて良く現れるんだろうが――さすがに、ありすぎじゃないか。
「そこそこのディオーズ狩りディオーズ狩り……ん、あった。あったよ~。コレどう?」
 チャクの持ってきた紙には、<小鬼狩り>と大きく書かれていた。依頼元はテュパンの騎士団。近くの谷で、鬼種に対する討伐隊が逐次派遣されているのだとか。恐らく頭数合わせ程度のものだろう。
「いいんじゃないか。じゃあ申し込んでくる」
「よろしく~」

 帰り道、食堂に寄って晩飯を取った。しかし、テュパンの魚料理は全くどうして旨い。今まで刺身以外の魚料理(特に白身物)はあまり好んで食べてなかったが、これは宗旨替えするべきか。

0008-01 (0016)

 居たね。居たな。
 チャクと目線でやりとりをしてから、眼前の小鬼を再び注視する。茂みの奥、多分食事でもしているのだろう。数は4匹。
 もう一度、チャクに目をやる。チャクもそれに気付いてこちらを向く。
 軽く頷き合うと、一斉に躍りかかった。

 テュパン近郊の谷だ。そこには何故か、小鬼ゴブリンが頻繁に出没する。勿論、これも《虹色の夜》以降の事だった。
 さしたる実害が無ければいいが、商隊の行き交う様な場所の事、何も起こらないに越した事はない。とはいえ、その頻繁に出没する理由(例えば巣が有るとか繁殖が早いとかなんでも)が特定出来ない以上、手頃な冒険者を小鬼の出没並の頻度で騎士団が雇い、これを逐次駆逐しているという。小鬼であれば、駆け出し冒険者(勿論俺やチャクを含む)にとって格好の腕試し相手だ。依頼を受ける人間にも事欠かず、駆け出しがメインの対象である以上、報酬も安く済む。成程一石二鳥だろう。

「あ~、つかれた~」
 事が落ち着いた途端、チャクはへたっと地面に腰を下ろした。辺りには焦げた草木と、小鬼の死骸。
「んも酷いよね。なんでぼくばっかり狙うわけ? おかしくない?」
 戦利品を捜していると、チャクがぶつくさ云うのが耳に入った。
 確かに、チャクの云う通りだった。斬りかかった俺達に対し、小鬼は一斉にチャクに向かって攻撃していったのだ。
「いったいいたいいたいたい! どいてってば!」
 小鬼の内の一匹(丁度チャクの真正面にいた)が、チャクに与えたダメージに満足したか踏み止まった所で、俺はその足を引っ掴んで地面に押し潰した。すると辺りに熱気が立ちこめた。慌ててチャクから距離を取る。炎の精霊にでも助力を頼んだのか、小鬼の内の2匹はそれで息絶えた。
「ってまたこっちに来るし!?」
 その炎を驚異と思ったのか否か、残りの二匹が再度チャクにかかっていった。一匹は俺が横から斬りつけて、もう一匹はチャクが(一匹を振り払ってから)魔法で餌食にして、そこでやっと終結した。
「おかしいよ。ユキヤくん一発も喰らってないし。っていうかぼくが前衛っぽくなってるのがそもそもおかしいし。魔法使いだよぼく? 普通は後衛からばしばし魔法飛ばすだけじゃないの?」
 使えそうなのは剣が一振りと、奴等の纏っていた硬革の鎧と…
「んね、ちょっと聞いてる?」
「聞こえてる。なぁ確かゴブリンの爪とかは市場で売れるんだったな」
「ん? ああ、そうだね、なんか物作ったりする人が使えるとかって」
「じゃあそれなりに形の良い奴を何個か選ぶか」

 テュパンに着いてから物品の分配をした。武器は(平和的に)ジャンケンの結果チャクに、鎧は俺が貰って残りはチャクに。
 取り敢えず、チャクの打たれ強さは解った。これなら問題ない。
 チャクが延々と小鬼の打撃の的になっていたのには、俺が常に奴等の射程外或いは視覚範囲外に存在する様に務めていたことも多分に占めているのだろうとは思う。思うが、ひとまず当面のところ、俺の練習に付き合って貰おう。

0008-02 (0017)

「ん~、小鬼狩りでいいよね」
「そうだな、小鬼狩りで」

 結果の報告がてら寄った公社でもう一度同じ依頼を引き受けた。出立は前回(というか今日)と同じく、翌日の朝イチ。チャクは「今度こそ的にならない」と意気込んでいるが、口を噤ませてもらった。
「どうするんだ、その爪とかなんとかは、市場に流しに行くのか」
「ん、そのうちね。出品者よりはまず、落札者になりたいかなあ。まだぼく、ちゃんとした装備買ってないし。商店でも巡ってこようかと思うよ。ユキヤくんはどうする?」
「防具を見に市場に行く。暫くはあの革鎧でなんとかなるだろうが、魔法を使う様な相手だと心許なそうだ」
「あ~、最終試験とかね~」
 ぶらぶらと周囲の店を見て回った後、入札棟でひとまずチャクと別れた。商店で物を買うよりは、市場の中古品でも狙った方が(勿論時間は掛かる。何せ最長10時間だ)俺の懐具合には良さそうだ。

トロと休日。

ファイル 22-1.jpg

トロ休を借りてプレイしていたとき、プレイヤーネームから想像したオリキャラで色々書いてみたんだぜ、の図。

おもに朝風呂してました。だって玄関までの途中にあるなんて…!

0009-01 (0018)

「おかしいって!」
 今日見つけた小鬼は、昨日と同じく4体。それを昨日よりも早いスピードで伸す事が出来た。が、その前後は昨日と同様の事態であった。つまり。
「なんでぼくばっかり狙われるの~!?」
 ありえない、とぶつぶつ云うチャクに、一応心の隅で謝ってから、取得物の検分を始める。
 今日の獲物になりそうなのはゴブリンの持っていた両手剣(昨日の物とは形が少し違う)と、それと一緒に腰に差していた木材。どうやらなんとかいう多少著名な木を切り出した物の様だった(昨日公社で、この木材の様に「原材料」として売れそうな物の一覧を貰ってきていた。でなけりゃ素人には全く判らない)。
「まぁ、あれだ」
 そろそろ何も云わずにいるというわけにも行かないだろう。適当な理由を見繕った。
「そのひらひらしたローブが、俺のより目立っただけじゃないか?」
「そりゃ、ユキヤくんみたいな黒でぴっちりしたのよりは、ちょっとくらい目立つと思うけどさあ~…」
「それで十分なんだろう」
 足を使うタイプである(俺の様な)戦法の奴に、チャクの様な服装は(当然ながら)合わない。足でも絡めて自ら転けるのがオチだ。一方のチャクは、締め付けを出来る限り失くしたタイプの、緩やかなローブを纏っている(魔術師系メイジにはこの手合いが多い)。しかも色は淡い紫。この森の中では目立つなという方が間違っている。
 勿論、俺の所作がもたらしている事実については、全く目を瞑った状態での感想だが。

0009-02

 テュパンに戻ってきてからも、チャクは時折「納得いかないよな~」と呟いていたが、ふと「そういえばそろそろ上位になれないかな」と漏らした。
「一応調べてみて、それでなれそうだったら、養成所行かない?」
「そうだな。じゃあ…」待ち合わせの場所と時間を決めようとして、魔術師ギルドの位置や、時間的にどの位掛かるのかという事を把握してない事に気付いた。「別にいいか、適当に宿で。遅くとも晩飯前までには戻れるだろう」
 時間が早ければ、そのまま養成所に行こう。俺の言葉に、チャクは首肯した。
「ん。それじゃ~ぼくあっちだから」

「おめでとうございます。クラスレベルアップですね」
 窓口の女性ににこやかにそう告げられ、逆に俺は眉根を若干寄せた。
 ギルドに“準備”されているクラスは数多い。基本的な4ギルドに限っても、下位・中位・上位合わせて1ギルドに1+4+8=13クラス、つまり全部で52クラス。これだけでも数多いと思えるのに、その上商人ギルドはあるし鍛冶師ギルドはあるし調教師ギルドもある。果ては、ギルドと関係ない特殊クラスなんてのも有るらしい。そこまで考えるとやってられん度も一塩だ。
 となると、トントン拍子にクラスが上がらないと、色々なクラスに挑戦出来ない。それは判る。判るのだが、「そのクラスで学んだ事が本当に身についているのか」という実感は、その速度と反比例して薄くなる。
 魔術師ギルドや預言者ギルド(端的に言うとメイジとクレリック)達であれば、その実感は多分、自身が扱える魔術なり神蹟が増えていく事なのだろうと思う。しかし俺達の様な肉弾戦系の場合、自身で掴んだイメージこそが技に繋がるから、基本、その種別に大した差違はない。確かに、手段としての手数はそれなりに増えてはいるが。
 ともあれ、新規クラス登録を無事に済ませ、講習を受けた。上位クラスは“ニンジャマスター”。……今までのクラスとの違いが、見事なまでによく判らない。下手したら「(一応)上位になった」という意識だけの差違なんじゃないだろうか。

 宿に戻る途中で、入札していた商品が無事競り落とせていたので受け取って行った。炎の魔法により耐性のあるらしいローブ。まぁ炎の魔法はむしろ向こうメイアへ掛けて貰いたい魔法だが、それでもゴブリンから拾った鎧よりは魔法耐性に優れるだろう。
 試験を受けてから3日(そう、色々有った気もするが、まだ3日しか経っていない)。あれから、俺は少しでも成長出来ているのだろうか。少なくとも、クラスはムダにひとつ上がったが。

0009-03 (0019)

「あの人は、あの白い上衣で自己調節でもしてるのか」
 テュパンで夜食用に保存食紛いの物を買ってから出立、途中それを歩き食いなどしながら、日付が変わる前に無事養成所に着いた。そのまま受付で最終試験の申し込みをしたのだが、やはりそこで見たメイアは“良く云えば落ち着いた”雰囲気を醸す女性であり、肌をヒリつかせる様な気配を纏う風には微塵も感じられなかった。喋りも見事に吃っていたし。
「それとも、あの受付に座ってるとああなるのか。講師を捜して走り回っている時には、今の彼女と同じだったしな。とするとわざとカモフラージュでもしてるのか?」
「んまぁ、別にそれはどうでもいいじゃん」走る俺の思考を、チャクがあっさりと断ち切った。「それより、明日誰を選ぶ?」
 チャクはパラディンを選び、合格していた。対空技が効いたのと、やはり一撃で潰される耐久力じゃなかった事が勝因だろう。
「ユキヤくんは魔術師を選んだんだよね。じゃあいっそ、全然別の人にしてみる?」
「ムダだろうな。残りは力押しと、トラップを張るタイプの人間だ。前者じゃどこまでダメージを入れられるか判らないし、後者は相手が浮いている以上全く意味がない。俺もパラディンとウィザードの2択までは行ったんだが、そこで打たれ強さを考えなかった」
「ん~、ユキヤくん自体こう、攻撃は最大の防御って考えるところあるでしょう。だからじゃない?」
「…かもな」
 痛いところを突かれた。昔からそうなのだが、どうも俺は“突っ走った方が早い”と考えるタイプの人間だ。周囲から再三注意されたのだが、ちっとも治りはしなかった。もっとも、俺に治す気も無かった訳だが。
「とりあえず、手堅く行こう。それでダメならまた考えるさ」
「また?」
 せっかく来たんだ、二連チャンだろうが三連チャンだろうが悪くない。勿論、出来ればそうはなりたくないが。

0010-01 (0020)

「確かそちらの方は合格されていたと思いますけれども、宜しいのですか?」
 やはりこの白い上衣が決め手なのだろうか。メイアは、受付で見せた吃りなどどこへやら、淡々と喋る。
 養成所の中庭。今日も陽光は緩く差し込み辺りを照らす。
「んと、ぼくは付き添いなので~」
「でも、試験は受けられるのでしょう?」
「そうですねぇ。いちおう。付き添いなので」
 付き添い付き添いと煩い。確かに再戦を頼んだのは俺だが、嫌なら嫌で部屋で待っていてくれても全く構わなかったのだが。
 こほんとひとつ咳払いをしてから、メイアは続けた。
「では、以前にも行った話ですけれども、最終試験について、再度ご説明させて戴きます──」

「例えば、パラディンでダメだったら次ウィザードにする?」
「パラディンでの結果次第だろうな。“運が悪かった”って事もあるかもしれない。ウィザードが一撃でやられたのと同様に」
 助力者の待つ部屋に向かいながら、チャクと軽く打ち合わせる。
「だが」
 扉の前で、姿勢を正す。
「お前は実際それで成功してるんだ。なら成功した方を採るのは当然だろう」
「まぁそうだね。それじゃ~お願いしましょうか~」
 ノックを、ひとつ。

0010-02 (0021)

 陽光は、やわやわと室内に潜り込む。細く開けた窓から入る風が、レース地のカーテンを揺らす。穏やかとしか云いようがない一時。
 それを破ったのは、慌てた様に布団をまくり上げた衣擦れの音と。
「えっ、あれっ、んんんっ!? ぼく何してるのっ!?」
 半ば裏返り掛かった叫び声だった。
「気付いたか」
 読みかけの本(適当に手に取った、室内の本棚に有った架空の旅情日誌物だ)を閉じ、挙動不審に辺りを見回すチャクに顔を向ける。そのチャクはといえば、窓から見える景色が中庭である事を認識し──そういえばこいつも以前この部屋に運ばれているのだろう──目に見えてがくりと肩を落とした。
「つまり、ぼくはまた一人気絶して合格したんだ」
「そうなるな」
 ああ~と空気が抜けていく様な声を出しながら、チャクは前方にへなへなと潰れた。

 今回の壁(語弊はあるが、多分この云い回しが正しいんだろうな)は、チャクだけではなかった筈だった。そう、助力者たる人間がいたのだから。俺の様に、敵の視界を考えながらの移動をしている様には思えない動きをするパラディン。つまり普通に標的となる条件としては、十二分にあったのだ。
 となると、チャクが今回(相も変わらず)狙われ続けたのはやはり、この男が相手の集中を集めるオーラか何かでも出しているのじゃないだろうか。俺が相手の対象になり辛かったとはいえ、確率的にダメージを受けるのは(相手が単体攻撃のみとして)1/2、それが都合4回で4連続。……多分、俺の所為だけじゃないと思うのだが。少なくとも、全面的にではないと思う。
 それでもチャクはかなり耐えた。勿論、一撃で吹き飛ばされそうな魔法を彼女があまり使わなかったのも理由の一端だろう。というか、攻撃手段としての魔法を今回は1度しか見なかった。1回は補助魔法、後は(信じられない事に)素手格闘だ。成程、運も実力のうちとはよく云ったものだが、なんだ、彼女は己の行動をくじ引きででも決めなければならない何かでもあるのか。
 ともあれ結果、一度チャクを庇ったパラディンが少量のダメージを負った物の、俺は全くの無傷、チャクだけが上衣に見事なかぎ裂きを作る結果となったのだ。

 ──という経過を簡単にまとめてみせてから(勿論自分の都合に悪いところは省いた)結果を続けた。
「最後、チャクが吹き飛ばされたのと、メイアがパラディンからの衝撃波(ソニックブーム)を喰らってたのが、ほぼ同時だ」
「なんだ~。だったら、もうちょっと後にするか先にするかしてくれれば良かったのに~」
 チャクはベッドの上で足をばたつかせ暴れる。…お前は年端のいかない子供か。
「どうする? とりあえず俺の目的は果たした。お前も別に合格を取消されたとかって事もないが…」
「ん。ここに居ても仕方ないし。1日潰れるのはやっぱり勿体ないし。テュパンに戻るよ。それに」えへん。と偉そうなわざとらしい咳払いひとつ。「元々僕がここに来たのは」
「……わざわざすまなかったな、“付き添い”頼んで」
「いえいえ、どう致しまして」
 ひょっとして、俺がこいつを壁にしている分、こういう辺りで釣り合いが取れてるんじゃないか?
 免罪符には欠片もならない様な事を浮かべながら、退室の手続きの為に部屋を出た。

初描きユキ兄さん

ファイル 23-1.jpg

「そんな時代もあったねと」って感じですね。
なにこの若者っぽいの(ぽいて

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